内容説明
ペロポネソス戦争は、二十七年間にわたってギリシア世界(ポリスの世界)のあちこちでさまざまな形で戦いが繰り広げられた戦争であった。陰に陽に、当時のギリシア人の生活を規定し、種々の行動を生み出す背景となった。この戦争を伝える同時代の歴史家トゥキュディデスの一書は、そうした行動とその結果を詳細に描き出している。本書ではトゥキュディデスを深く読むことによって、そこに語られるエピソードを再構成し、それにかかわる人間の心理を推測するとともに、その背景にあるポリスのあり方を探り出す。
目次
第1章 アルキダモスの苦悩
第2章 プラタイアの場合
第3章 アテナイ開戦
第4章 ペリクレスの思い
第5章 ミュティレネの場合
第6章 ケルキュラの場合
第7章 シケリア遠征
終章 結末
著者等紹介
高畠純夫[タカバタケスミオ]
東洋大学文学部教授。1954年生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。富山医科薬科大学助教授、東洋大学文学部助教授を経て、2002年より現職。専攻は古代ギリシア史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みのくま
6
トゥキュディデスの歴史著述の弱点は急に著述対象の戦線が移動する事である。ギリシア西岸のケルキュラから北方のトラキアに何の断りもなく文章が飛ぶ。この事自体はペロポネソス戦争がいかに戦線を拡大したかを体感できる要素を多分に含むので興味深いのだが、如何せんわかりづらい。その点、本書は各戦線ごとに章立てがされており大変読者に優しい構成になっている。他方、かなりトゥキュディデスに依拠した著述がされているにも関わらずアテナイの帝国主義にも厳しい視線を向けており興味深い。著者の好悪がかなり反映されているとみてよいだろう2023/10/21
atlusbou
3
ギリシアのポリスを二分したペロポネソス戦争を、トゥキュディデスの記述をベースに考察した本。アテナイ、スパルタの大国だけでなく、プラタイア、ミュティレネ、ケルキュラなど二大勢力の狭間で揺り動かされた諸国にも焦点を当て、ペロポネソス戦争の全体像を分かりやすくまとめていました。2020/05/03
すがの
3
東洋大学出版会からのはじめての書籍。ギリシア史家がトゥキディデスを読み直すことでペロポネソス戦争を捉え直す。あとがきで「この本を卒業論文を書くために読む学生もいるだろう」と述べている通り、学術的にしようとする意識もあり、やや難しいとも思われるが、しかし、読みやすさはある。/よくある小国の対立が、大国の対立に取り込まれ、やがて戦争になってゆくという悲劇を見る。2016/07/24
Myrmidon
2
専門書一歩手前くらいのペロポネソス戦争本。通史ではないが、個々のポリスの事情やアテーナイやスパルタでの意志決定の様子がかなり具体的に描かれ、古代ギリシアへの理解を深めることができた。ギリシアフリークの自分としては満足。あと、著者作成の地図が随所に挿入されているが、これが大変見やすい。2016/08/20
錢知溫 qiánzhīwēn
0
西洋言語はまったく讀めないので一素人として感想を述べることしかできないが、附せられた地圖がわかりやすく、またトゥキュディデスの記述を嚴密に吟味する姿勢(たとえばペリクレスの演說は『どこまでが實際に發せられた言葉でその時に彼が確かに抱いていた戰爭への見解であったか?』)や、技術的・社會的制約がもたらす戰爭への制約など軍事學の見解も踏まえられているとおぼしいのもよい。 ペリクレスが提示した"榮光あるアテナイ"に呪縛されていくさま、その後のクレオン・ニキアス・アルキビアデスたちの動向、重厚な政治劇を味わった。2024/10/18