内容説明
世界で一番海から遠い場所、中国アルタイ地区から届いた極上の紀行エッセイ。
目次
第1章 冬の住処(ことのおこり;三日の道のり ほか)
第2章 荒野の主人(美しいカーマ;ジーマ ほか)
第3章 静けさ(夕闇の中で;牛の冬 ほか)
第4章 最後の出来事(豪雪の年;私が体験していること ほか)
著者等紹介
李娟[リージュエン]
作家。1979年、中国新疆生まれ。1999年頃から、新疆北部のアルタイ遊牧地域で、母親が営む雑貨店を手伝いながら散文を書き始め、「南方週末(Southern Weekly)」紙などにコラム欄を持つようになる。『羊道』で2011年に人民文学賞、2012年に朱自清散文賞を受賞。また、『遙遠的向日葵地』で2018年に中国文学最高栄誉のひとつである魯迅文学賞を受賞している。新疆ウイグル自治区ウルムチ市在住
河崎みゆき[カワサキミユキ]
文学博士。國學院大學大学院非常勤講師。専門は日中対照言語研究および社会言語学。中国語で詩や散文を書き、香港の文芸雑誌「香港文学」や「香港作家」などに採録されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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spatz
15
極限の自然の中にいる、ということは、人の生の営みを、ただただ、生き延びること、に収斂された極限のレベルまで結晶のように半端なく研ぎ澄ます。大自然の中では人間なんてちっぽけだ悩みなんて小さい、と感じる、とはよくいうが、それを生と死の極限まで突き詰めたようなものだ。 新疆ウイグル地区ウルムチ在住、という言葉だけでもいろんなことが想像できる。 https://www.netgalley.jp/catalog/book/242679 2021/12/18
あかぽち
13
カザフ族の遊牧民と過ごした一冬の体験記。毎日、極寒のなかの放牧、水を求めて砂漠の雪を探しあるいたり、好き勝手に移動するラクダたちを連れ戻したり。なんて過酷な生活。でも大きな空に浮かぶ星空や楽しい家族との会話に大変な日々を忘れそうになる。中国の政策で遊牧民族も変わっていくのだろうか。彼らにとって良いほうに変わればいいな。2022/06/16
遠い日
10
ゆっくりゆっくり読み直す。李娟が見て、体験して、書いたカザフ族の遊牧民との暮らしには、わたしが想像できない文化と蓄積された慣習がたくさん登場する。極寒の砂漠、水の確保さえ難しい中で粛々と営まれる冬牧場。ラクダやヤギ、牛の放牧は気の遠くなるような距離を移動させ、食べさせ、連れ帰る。客人には大いに食べ物とお茶を振る舞い、お互いの信頼を見せ合い、築く。でなければ茫漠たる砂漠で人はただの記号のような存在になってしまう。中国政府の政策で「失われる遊牧生活の最後の姿」を記すことに李娟はある種のやるせなさを感じている。2022/02/01
あっくん
9
久々に中国現代文学作品を手に取った。 魯迅文学賞受賞作でノンフィクションのルポ。新疆ウイグルのカザフ遊牧民族と行動を共にした筆者が、知られざる遊牧生活を描く。まずは巻頭の写真の数々が印象的。とにかく雪で白一面の世界が果てしなく広がる。それはアラスカや南極といった極地とは違う白さ。少し埃が混じっている、例えれば「生物の薫りが残る」白さだ。その中で遊牧民たちは馬や羊といった家畜たちと生きている。特にドラマは起きず、淡々と日々お茶を飲み、家族と語らい過ごす。そもそも「日常」とは何か?を問いかけたくなる作品。 2022/09/11
遠い日
8
新疆ウイグル自治区にて3か月に及ぶカザフ族の遊牧民との暮らしを事細かに綴ったエッセイ。だが、衝撃的な現実として迫るものがあった。ことばも満足に通じないジーマ一家と、慣れぬ遊牧の仕事をし、圧倒的な確かさでそこにある大地と空の下で感じることどもの手応えに、生きることのひとつの真実を見る思いがした。愛すべき変人のジーマの言動には李娟の素直な揶揄が逆にユーモアを放つ。等身大のことばで書き綴る日々は、きっとその奥に生と死の思惟もあったに違いない。彼らには今は会うことも叶わない現実が、この世界を一層堅固な印象で象る。2021/12/27
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