内容説明
9.11直後のニューヨーク、その最深部に低く響くさけび、そしてうめき。2002年晩秋、フィールドワークに訪れたNY・ハーレム地区で僕が出会ったのは、マルコム・X暗殺の容疑者だった…。差別や貧困、暴力が根強く残る都市の日常をみずみずしい文体で活写した、気鋭の人類学者によるエスノグラフィ。
目次
第1章 誰が「黒く輝ける王子」を殺さなかったのか―カリルの生とFBIの影
第2章 ストリートのニーチェ―アリの闘いと純白のアーカイヴ
第3章 一一六丁目ストリートのスケッチ―ハミッドの「あるく、みる、きく」
第4章 理想郷のつくりかた―ハーレムとコロンビア大学との境界
第5章 先送りされるコミュニティ―アブドゥッラーの夢とディレンマ
第6章 ムスリマの世間―二十一世紀の問題とアイシャのムーヴメント
補章 本書の「問い」と「認識」についての覚え書き
著者等紹介
中村寛[ナカムラユタカ]
多摩美術大学准教授。一橋大学大学院社会学研究科・地球社会研究専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。専門は文化人類学で、「周縁」における暴力や社会的痛苦、差別と同化のメカニズム、コミュニケーションなどのテーマに取り組む一方、「人間学工房」を通じてさまざまなジャンルのつくり手たちと文化運動を展開する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みーまりぽん
10
2002年から2004年にかけて、N.Y.ハーレム地区でのフィールドワークで出会ったアフリカン・アメリカン・ムスリムの人々とそれぞれ時間をかけて付き合い、会話をし、時にはただ一緒に過ごして触れた経知恵や知識知恵や知識。ネイション・オブ・イスラームなどの指導者といった際立つ人物の声明などではなく、知り合った「ごく普通のムスリムたち」の肉声を捉えたいという熱のこもった一作。マルコム・X暗殺容疑者のカリルが「普通の」なのかどうかはおいといて、アリ、アブドゥッラー、アイシャ、そしてハミッドとの交流が読んで面白い。2023/12/31
tomomi_a
7
ハーレムに暮らすアフリカンアメリカンたちの、それぞれさまざまな生き様をある目線とからだで描ききった労作。躊躇いや空回り、観察者や他所者であることに開き直らずでも一切を隠さないでいたいかのような書きっぷりは、とても信頼できるものだった。これが唯一ではない、けど、ここには生きてるひとの気配がちゃんとある。信仰が始まるきっかけがあることにはっとした。生まれを選べないけど、みな何かを、選ばないことも含めて選んで生きてる。ひとの仕草や振る舞いになにを見つけられるか、センス以上にどう生きてきたかが試されているみたい。2015/12/04
ヨシオ・ペンギン
2
ニューヨークのハーレムにくらすムスリムたちのエスノグラフィ。ムスリムたちが自らをどのように捉えているか,特に過去の自分たちと白人との関係の捉え方にいくつもの層があって,興味深い。また,調査者の熱い気持ちが伝わってくるようでその辺りも◎。2021/09/24
ひつまぶし
1
前によく分からないので後半流し読みしたものを再読。今回も後半流し読みになったが「よく分からない」と思った原因を探ることに留意した。六つの章に体系的な筋はなく、議論の総括もない。論文ともエッセイとも言えない記述が延々と続くので、読みにくい。「ハーレムのリアル」に憧れる人が読むと面白いのかもしれない。フィールドワーカーとしてのジレンマが最初から最後まで顔を出すが、特に答えが出されるわけでもなく、論述の邪魔をしているだけだと思う。補章で研究関心や枠組み、方法論について触れられているが不十分だし、最初に書くべき。2023/03/04
okbooks
1
「わたしがイスラームのどんなところに惹かれたのか。ひと言で言えば、平和ね。」(P.380)JAZZとHIP-HOPをBGMに、トリコロールで溢れるSNSを眺めながらこの本をずっと読んでいた。2015/11/15