内容説明
20世紀イランを代表する大作家サーデグ・ヘダーヤトが、第二次大戦前後の激動のイランにあって、時代の波に翻弄されつつ、ときにリアルに、ときには表現主義的に、ときには風刺的に、またときには内省的、哲学的に時代の諸相を描いた珠玉の選訳十篇。
著者等紹介
ヘダーヤト,サーデグ[ヘダーヤト,サーデグ][Hed^ayat,S^adegh]
1903年テヘラン生まれ。国費留学生としてベルギー、フランスへ留学。1930年に短篇集『生埋め』を上梓し、本格的に作家としてデビュー。1936年からの滞印中に執筆した前衛的小説『盲目の梟』は、のちにアンドレ・ブルトンらも賞賛するところとなる。ペルシア語による斬新な小説執筆に旺盛な創作力を示す一方で、イラン固有のフォークロアなどにも強い興味を示し民俗誌的傑作を多く残したほか、欧州の文学作品のペルシア語への翻訳にも優れた業績を残した。1951年4月逗留先のパリで自らの手で命を絶ち逝去
石井啓一郎[イシイケイイチロウ]
翻訳家。中近東現代文学(イラン、トルコ)。1963年11月15日東京生まれ。1986年上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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兎乃
3
ペルシャ語散文の巨匠と呼ばれるサーデグ・ヘダーヤト。何度も自殺未遂をかさね、最終的にフランスで自殺。そういう闇の積み重ね・リフレインが濃厚な短篇集で、ある種の人はうんざりし、ある種の人は 軽薄な時流に乗らない作者独自の視点を見出す。「生埋め」のほうが物語に動きがあり、面白みという点でいえば、本書は面白くないのだと思う。ただ、そういう「面白くないもの」も私は好き。活版印刷時代の誤植、翻訳者のセンスも素晴らしい。2012/07/10
myung
2
気分的に落ち込んでいる時、この本を開けば、さらなるどん底に突き落とされるか、それとも甘い誘惑に身を委ねたくなるか……。収録作の多くが自殺、もしくはそれを仄めかす終り方で、誰にでも気軽に薦められる作風ではないのは確か。しかし仏陀を信奉するルーズべハーンが至った死は美しくもあるし、その作品世界が醸し出す雰囲気は鳥肌が立つほど感動した。意外にも作者は文体家で、作品によって語り口を器用に変化させていて、飽きさせないようには感じるが、全体的な作りはやや面白みに欠けるのも確か。この本は自分と相談してから読みましょう。2013/11/26
の
2
イランの前衛作家、サーデグ・ヘダーヤトの短編集。中近東現代小説の複雑怪奇系統の作家の中でも、一際陰惨で独特の雰囲気を纏っている作家ではなかろうか。欧米の現代文明の波から外れた、あるいは進んで波に乗らなかったことで育まれた、冷めたアイロニーとも言うべき冷徹な語り口が、過去のタブーの払拭し、無意味な現代思想の流入をあざ笑う、己の中に生まれた哲学といった趣きとなっている。その哲学の中では、絶対的な死であっても許容され、生きた記録は思索として社会的使命を佩びる。作者自身の社会観が鮮やかに表明されている。2011/06/26
おとや
0
近代イラン文学の代表的作家サーデグ・ヘダーヤトの短編集。چنگال، آتش پر ست، آخرين ابخندなど13編の短編と、ヘダーヤト略伝を所収。運命論めいた不条理を主題のひとつとした作品が多く、同時代のフランスのサルトルやカミュとの共通性も感じられる作風。「袋小路」「慕情の幻影」がぼくの気に入りだが、諧謔的な「ワンワンご主人様」シリーズも味がある。いつか原文で読めるようになるかなぁ。2013/05/24