内容説明
社会は一気に暗い時代へなだれこむ。厳しい冬からひかりの春へ命をつなごうとする動物たちに、「血縁の熱いまなざし」を注ぎつづける作家プリーシヴィン―自然観察の達人の戦前・戦中・戦後日記。
目次
裸の春―1938年のヴォルガ紀行
黄金の草地―「裸の春」と生きものたち
レニングラードの子どもたち
茸の話
著者等紹介
プリーシヴィン,ミハイル[プリーシヴィン,ミハイル][Пришвин,Михаил Михайлович]
1873‐1954。作家。中部ロシアのオリョール県に生まれる。中学を放校になったあと、政治活動で厳しい処分を受けたため国内の大学には進学できず、ドイツのライプツィヒ大学で農学を学ぶ。三十半ばで発表した北ロシアの民俗紀行(邦訳『森と水と日の照る夜』)により作家として出発した。自然観察の達人として、ロシア各地を放浪しながら多くの紀行文(オーチェルク)、小説を著し、「自然の歌い手」「森の詩人」として名をはせる一方で、革命、戦争、スターリン時代を生き抜いた人間の真情を厖大な日記に記した
太田正一[オオタショウイチ]
詩人・ロシア文学者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぱせり
5
時にはユーモラス、時にはただ美しいが、何よりダイナミックで野生的な力を感じる。 ここに登場する人びとが森の厳しい自然の戒律を守って生きる猟師たちである事を思えば。春の大洪水季節、狩る側と狩られる側の法が、ときにはあとまわしになるが、こういう地で暮らす生き物たち(人も含めて)のおおらかな知恵なのだろう。2022/02/13
qoop
1
冬から春へと季節が変わる瞬間を、精緻にしてダイナミックに捉える筆の冴えは見事。ロシアの大地に根ざして暮らす人々と動植物たちを、愛すべきものとして描出する著者。当時のソ連に吹き荒れた恐怖政治の影すら見えない本作に戸惑いを覚えないわけではないのだが、これは一種のユートピア小説なのかも知れないな、とも感じる。肉親を遇するように自然を扱う「骨肉の目」という著者の自然への親しみ深い視点を、恐怖政治へのアンチテーゼだと読むのはうがち過ぎだろうか。2013/03/10