内容説明
言葉がはじめになければ世界は脈絡を欠いたまま消失していく。価値の下落した既成の表現は現実の線より下にさがり、騒がしい社会の公分母となっている。誰もが使う言葉の中で成立するのは水準以下の恋愛と死んだ人間関係だけだろうか。無名にして有能な画家ヴェーラが他人の死の中で偶然出会った二人の男、この父と子と彼女の三人の関係は、展覧会と性的生活と亡霊をよりあわせながら、あらかじめ定位置にいた二人の女の関係をほぐしていく―。言葉の反響を回復し、エロスを言葉に昇華させる作家ナールビコワが発見した恋愛小説の均衡点。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
takeakisky
1
面白い文体。サイダーの泡がプツプツいうのを見ているような、唐突で脈絡もなく、でも心地いいテンポでぽんぽんと跳び回る想像力。意味不明な部分が結構あるけれど、そこもキュート。178頁に校正のミスがあるが、それすら気にならない。静かな訪問者たち。成長と消滅を繰り返す胎児。どこかレイモンクノーとかジャックルーボーとかボリスヴィアンなんかを思い浮かべる。とにかく面白かった。 今のところこの一冊とアンソロジー魔女たちの饗宴収録の夜という短篇しか邦訳がないようだ。解説にある二作品の邦訳は刊行されなかったよう。全く残念!2021/11/17
中海
1
モスクワ発マジックリアリズムである。ソローキンっぽさもなくはない。しかし読み進むにつれ、アンジェラカーターっぽさを強く感じる。物語→まだまだ男性上位の社会で、男1人に3人の女性が翻弄される。呆れながらも女達は振り回されるが、作者の怒りというのか、攻撃性は、「結局この男は目についた物にただ触っているだけで、誰のことも大事にしてないし、気にもかけてない」っていうことかなあ。1人の女性のドレスを別の女性に着させたりするのも、女性の尊厳を無視してるし、その服は僕の物であって誰のでもない、という発言がまた。。。2021/01/28