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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
今ごろになって『虎に翼』を観ているおじさん・寺
75
夏葉社の本なので愛すべき良書である。著者の山高登さんは元は新潮社の編集者で、のちに版画家になった方である。山高さんが撮影した昔の東京のモノクロ写真、山高さんが装丁した書影、山高さんが作成した版画の蔵書票。どれも眺めて飽きない趣きのものだが、その合間に挟まるように自伝的な談話が昭和の文学家の一面を伝えてくれる。内田百閒、尾崎一雄、宇野千代、吉屋信子、林芙美子、上林暁、谷内六郎、井伏鱒二、土門拳、山本有三、ちらっと坂口安吾も登場。おまけに『昔日の客』山王書房店主・関口良雄も登場。薄いようで詰まった内容の一冊。2020/01/01
Y2K☮
35
夏葉社の本。著者は元・新潮社の編集者で、売れる本よりも中身の濃い本を作ることを意識していた(当時の新潮社にも少なからずその種の矜持はあったはず。たとえば三島由紀夫が亡くなった際のエピソードとか)。本の装丁が得意でのちに版画家へ転じた。上林暁が好きで山王書房の店主・関口良雄と意気投合し、彼の著書「昔日の客」を編集した(本書ではオリジナルの装丁がカラーで見られる)。好きなものの連鎖が続いて関わった皆が幸せになるってこういうことかもしれない。あと書票という文化を初めて知った。内田百閒と上林暁は未読なのでいずれ。2023/10/13
Y2K☮
34
時代の状況に関係なく、お金を稼ぐ以上の何かを仕事で実現させたい人とあくまでも生活のためと割り切る人がいると思う(同一人物の中に双方が併存していることも珍しくない)。おそらく著者にとって新潮社における編集業はずっと前者だった。だからこそ辞めて版画制作に専念にすると決めた背景を考えてしまう。ある時期から後者になっていたのかなと。誰もが言うように、自由になった後の方が自分の時間はなくなる。それでも山高さんに後悔は微塵もなさそう。ひとり出版社を起ち上げた島田さんが本書の制作に込めた気持ちがなんとなく伝わってきた。2024/08/05
タカラ~ム
13
山高登さんは、今年91歳の木版画家です。そして、元新潮社の文芸編集者でもあります。本書は、夏葉社の島田さんが山高さんから編集者だった当時の内田百閒や志賀直哉、吉屋信子といった作家たちとの話を中心に聞き書きしたものです。と同時に、山高さんが木版画の作成のために撮影した昭和の街の風景を集めた写真集でもあります。山高さんの話にも、山高さんが撮影した写真にも、かつての東京の光景が見えます。懐かしく、そしてどこか新しさも感じる、そんな1冊だと思います。2017/11/19
さすらいのアリクイ
6
戦後間もないころに出版社、新潮社に入社し編集のお仕事をされていた著者の山高さんが仕事で関わりを持った小説家たちとの出来事や自分は本をどう作ってきたかを語った本。内田百間、上林暁、尾崎一雄などとのやりとりを読んでいると各作家さんの生活、仕事の風景だとか、本の作り方や本のまわりのことなどが少しずつ頭の中に浮かんでくる。ひょうひょうとした感じの文章なんですが要所でビシッ、とくるものがあります。著者が撮ったモノクロ写真、装丁した本、作った書票も。この本を作った方は著者の仕事を尊敬していることが伝わってくる本。2018/06/10