感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まーくん
80
明治42年秋、漱石は旧友中村是公(満鉄総裁)に誘われ満州を旅し、紀行『満韓ところどころ』を新聞に連載した。作中、民族差別的な表現を用い、明治日本の植民地政策に同調、統治者側の目線で民衆をとらえたとして強く批判されおり、彼の作品の中では評価が高いとは言えない。批判に対し、差別的表現は諧謔的な文体が生み出したものなどとの弁護も少なくないが、その論は説得力がないとする。するが一方、文豪漱石先生に限って、そんな単純なことはないのではと期待し(勿論そんなこと著者たちは言っていないが)現地にその足跡を辿り背景を探る。2021/07/24
鈴木貴博
2
紀行文「満韓ところどころ」に描かれた漱石の明治四十二年の満韓旅行から百十年。様々な読み方がなされつつも、何かと批判の多い同作品であるが、本書では、漱石ゆかりの熊本大学関係者を中心とした漱石研究者が、漱石の詳細な足跡、今日の現地訪問取材等を踏まえながら、「満韓ところどころ」の今日的な読直しについて様々な角度から検討する。当時と今の現地の状況、文体・記述対象などから推理する漱石の真意、文中に登場する事件の詳細の推理、漱石の他の作品との関連性からみた本作品の文学性等々、研究の豊かさを実感しつつ面白く読んだ。2019/06/16