内容説明
将来に大いなる夢や希望を抱いていた16歳の進。しかし受験を控え、進学するか就職するかに悩むようになる。進の選択した道は…。少年の揺れ動く心は時代に関係ないものだろう。太宰の年少期の友人の日記をもとにした作品で、同様に日記形式で表現された明るく爽やかな作品である。
著者等紹介
太宰治[ダザイオサム]
1909‐1948。青森県出身。津軽の名家に生まれる。左翼活動に傾倒し、東京帝国大学へ入学するも除籍。井伏鱒二に師事。数度の自殺未遂と破滅的・退廃的な作風で多くの若者の共感を得たが、玉川上水にて自殺。三鷹市禅林寺で毎年6月桜桃忌として供養されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アルフ
30
こうありたいと願う高い理想と、思うようにならない現実。そのギャップに悩む等身大の若者の姿が、日記という形でみずみずしく伝わる。太宰治という名前にはちょっと抵抗あったけど、読みやすく意外と前向き。ともすれば現実に妥協しがちな今の自分には、理想主義的なその姿が新鮮に映る。理想主義と現実主義。どちらかだけではつまらない。2019/06/15
ともちゃん
14
16〜17歳男子の日記として綴られている。理屈と理想が強くて他力本願だった主人公が、役者になることを決意。先生と敬う人から”ひとりでやれ”と一喝された事を期に、自分の人生を切り開くべく独往邁進、成長していく様子が日記から読みとれた。前向きでひたむきに未来を夢みる(日々の気分にバラツキあり)作品で読後は爽やか。役者として一歩を踏み出した時、ロマンチシズムではなくリアリストになったのだと自負し、その上で微笑をもって正義を為す姿勢は頼もしい。理想ではなく現実を生きる私にも、糧となる言葉の数々が散らばっていた。2014/07/03
ケイ
11
進はお勉強が好きなようなので、なんだかんだ言いながら結局一高を目指していく話かと思っていたのだが…。最初の劇団での試験官との堂々としたやりとりが何ともいい。斎藤先生との会話も、微笑みが浮かんでくるが、同時に師とはとういうものだろうと納得する。市川菊之助も姉さんも鈴岡さんも、勿論お兄さんも、登場人物がみな愛おしくなる。賛美歌の詩とともに、希望にあふれるいいお話だった。2013/02/23
あっくん
6
16歳になったばかりの少年、進の日記の形式を取って物語は進行していく。太宰らしく、ニヒルで他人にも厳しくて繊細過ぎて正直面倒なやっちゃな、と思いつつも、80年前も今も思春期の悩みはそう変わりないのかもしれないと思う位の親近感だ。いつどこで転落・堕落するかと冷や冷やしながら読んでいたが、最後は拍手。これは明るい太宰。2019/02/11
テツ
6
青春期の青年の日記として綴られる文章。『人間失格』に代表されるような太宰のイメージとはかなり異なり、理屈っぽく理想が高くてもグニョグニョとひねくれるわけではなく、ある程度真っ当な青春期の情熱を持った人間が描かれている。ポップな作風、そうした作風に馴染むキャラクター。挫折も味わいながらなんだかんだで未来を自らの手で切り開いていこうとする意志をもつ青年。健康的だね。理想と現実との狭間で生きていくための妥協点を見出し青年は大人になる。太宰本人は生きるための妥協点を見つけることを良しとしなかったんだろうな。2015/06/12