内容説明
詩人アレクサンドル・ヤーシンの故郷はモスクワの北東おおよそ六百キロの草深い農村。多くのロシア人の心になぜか限りなく懐かしいもの、“魂の原郷”を呼び起こすという北の大地である。十五歳のときに地方紙に詩を発表して奉られた渾名は「赤毛のプーシキン」。モスクワの文学大学を卒えると同時に前線へ。塹壕でも作品を書き続けた。戦後も次々と詩集を出すが、国家主導の文学理論と相容れず、次第に「小さな散文」に活路を見出す。見据えたものは大きなものの陰に隠れた小さな生きものたちのいのち。ソヴェート詩人の断然ポエティックなこの散文集は日本初の単行本だ。
目次
詩(歌詞のない歌;蘇生;春の声;ともしび;はだしで大地を)
エッセイ(鶴―ことばのちから;犬でも牛でもなく;ヘラジカ;皮剥ぎ)
小説(市中の狼;古長靴;バーバ・ヤガー)
著者等紹介
ヤーシン,アレクサンドル[ヤーシン,アレクサンドル] [Яшин,Александр]
1913‐1968。北ロシアの生まれ。1928年に最初の詩を世に問い、34年に故郷で最初の詩集『セーヴェル讃歌』を発表。モスクワのゴーリキイ文学大学を卒業と同時に第二次大戦の前線へ。戦後は抒情詩人から独自の散文作家へと変貌を遂げるが、短編『梃子』、中編ルポ『ヴォーログダの結婚式』は体制からの烈しい批判にさらされた。68年、モスクワで死去
太田正一[オオタショウイチ]
詩人・ロシア文学者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヘラジカ
16
過酷で豊穣なロシアの大地と、そこに生きる人々をテーマにした詩・短編集。忙しいとき時間を見つけて読めば心が落ち着く本だと思う。とりわけ素朴でさっぱりとした短編『ヘラジカ』がとても良い。完全に贔屓目?でこれだけ強烈に印象に残ってるだけだけど(笑)やはりメインは表題の詩と後半の大部分を占める『バーバ・ヤガー』だろう。2017/01/07
きゅー
12
ロシアの作家ヤーシンの詩、エッセイ、短編小説を纏めた一冊。詩やエッセイはあまり印象に残らなかったけれど、小説「バーバ・ヤガー」は良かった。ヒロインのウスチーニャの一生は本書のタイトルと同様に裸足で大地に立ち、力の続くかぎり格闘する人生だった。狭い社会の悪意ある噂や、肉親故に抱いてしまう憎しみに堪える一生。物語は過去と現在を行き来するが、その度にウスチーニャの変わりように軽いショックを受ける。決して大きな物語ではないが、この言い方が正しいのか分からないが、無駄に消尽された彼女の一生が胸に突き刺さる。2017/11/01