内容説明
70年以上続いた社会体制が崩れたとき、そこで生きてきた人間はどのような影響をうけるのか。新しい社会にすぐに溶け込んで利益を手にするもの、変化についていけず貧しさに身を落とすもの…時代の変化はすべての国民に平等ではなかった。ソ連時代に農村の現実を描いた作品で多くの読者の共感を呼び、エコロジー問題にも早くから注目して日本にも何度も訪れている小説家ラスプーチン。大きく揺れ動いた社会のなかで、民衆の魂の声につねに耳を傾け続ける伝統的な文学の立場を守り続けている作家が世に問うロシアの現実。
著者等紹介
ラスプーチン,ワレンチン[ラスプーチン,ワレンチン] [Распутин,Валентин]
1937年、イベリヤのイルクーツク州に生まれる。1970年代からロシアの農村を舞台にした小説を数多く発表し、国内外で高く評価される。故郷に近いバイカル湖の環境汚染問題に取り組み、エコロジー問題のシンポジウムなどで日本にも訪れている。ペレストロイカの時代には人民代議員もつとめたが、ソ連崩壊後は作家活動に復帰、2000年にはソルジェニーツィン文学賞を受賞
大木昭男[オオキテルオ]
ロシア文学研究者。1943年生まれ。早稲田大学大学院修了。2013年3月まで桜美林大学教授。現在は桜美林大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Miyoshi Hirotaka
39
世界地図を塗り替えたソ連崩壊。ロシアを混沌と貧困に陥れた旧体制の特権階級の無責任や無能さ、欧米の卑俗文化に迎合することへの批判が、危険で痛い手術を受ける患者と、病巣が大きすぎて完治しない患者の間で繰り広げられる。病室はロシア、患者は国民。崩壊直後の不安や重大な危機なのに選択肢がない葛藤が見事に表現されている。革命や内戦などの大事件がどのように小説化されるかで、その国の文化度がわかる。世の中の矛盾を暗喩で描く方法は19世紀のロシア文学の伝統を受け継いでいる。やはり、この国は「国破在山河」、文化の奥が深い。2014/12/16
きゅー
5
1990年代に書かれた短編集が3作品収録されている。変革期の社会における人間生活が主題となっており、たとえば「病院にて」では旧体制で利益を被っていた人物が激しく難詰される場面があり、「あの同じ土の中へ」ではお金がないために母を埋葬できない女性が登場する。その当時ロシアで暮らしていた人ではないと共感は求めづらい内容に思われた。あの時代の、あの場所に生きていたからこそ登場人物の不満に耳を傾け、理解を得られたのではないか。私には、普遍的な物語として訴えかけてくるものが少なかった。2013/10/18
刳森伸一
2
急激に変化する社会や価値観に付いていけない人々を描いた3編の短篇小説。いずれも少し観念的な物語かな。訳文があまりに大日本語的で、ところどころ意味が分かり辛い文章が出てくるのが難点。2014/03/15