内容説明
昔からロシアでなじまれてきた伝説の妖怪魔物が現代人の暮らしに忍び込んで、人間の心の奥底にひろがる見えない世界から世にも妖しい物語をつむぎだしてくる!モダンでおしゃれなユーモア短編で20世紀初頭ロシアの人気作家となり、革命後は亡命先のパリで活躍を続けた女性作家の不思議な魅力あふれる連作短編集。
著者等紹介
テッフィ[テッフィ][Тэффи]
本名ナヂェージダ・アレクサンドロヴナ・ロフヴィーツカヤ。1872‐1952。帝政ロシアの首都ペテルブルグに生まれ、母の影響で子供時代から文学に親しんだ。約10年の結婚生活を経て離婚後、詩や風刺文、軽演劇の台本などを書きはじめ、1910年に刊行されたユーモア短篇集がベストセラーとなって女性人気作家としての地位を確立した。チェーホフ亡きあとのロシア文学界で、モダンで洒落た笑いの文学をリードしたが、その後のロシア革命は受け入れることができず、一時出国のつもりで移り住んだパリで亡くなるまで亡命生活を余儀なくされた。パリでは亡命ロシア人社会のなかで活発に活動し、人気作家として作品を書き続けた
田辺佐保子[タナベサホコ]
ロシア文学研究・翻訳者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
61
古くから息づくロシアの妖怪や怪異がもし、現代社会に溶け込んでいたら・・・?お茶目且つ軽やかな文章で描かれる優しくも恐ろしい怪異との生活にクスクス、笑わずにはいられません。「ドモヴォイ」のばあやの優しさと娘の感謝、「ルサールカ」の死後、結ばれる恋に目が潤む。凶悪版垢なめな「風呂小屋の悪魔」の所業にガクブルしていたら存在を否定していた父親が被害に遭ってから意見を変えたという場面で、「父親」であることで調子に乗る男嫌いにとっては胸が漉きました。異色の「サモヴァール」は起こりそうな一番の怪談ではないかと思います。2016/07/10
ワッピー
33
【日本の夏は、やっぱり怪談】10月革命を機に亡命した作家テッフィのロシア妖怪物語。革命前のロシア中流階級の状況と生活に染みこんだ妖怪たちのストーリーの融合が心地よい。「精神年齢13才」と評されたテッフィの子供時代の視点、あるいは大人視点でも、稚気にあふれ、不思議な中にもユーモラスな雰囲気が漂います。ワッピーのお気に入りは「妖犬」で、帝政から革命後の変動期の中で翻弄される頭の軽いヒロインと、幼いころから彼女を慕うトーリャの純愛を描いた名編です。その他の作品も伝統的な妖怪たちに材をとった素晴らしい物語です。⇒2021/06/29
ハルバル
9
ロシアに限っては妖怪より人間の方が怖いかもしれない…と、(信じたくはないが)そう思わせる短編集だった。というか出てくる登場人物たちが揃いも揃って妖怪以上に個性的でユーモラスで、とにかく強烈すぎて全然妖怪の話が頭に入ってこない(笑)「吸血鬼」の放浪癖のある叔父、「ドモヴォイ」の恋愛に浮かれる人妻、「風呂の魔」の若い召使に手を出して妖怪のせいにするしょーもない夫よ、おまえはマジで風呂の魔に喰われろ!…とまぁ他にもチェーホフかドストエフスキーかっていうくらい大変面白い方々が登場。妖怪も人間には形無しですね。2018/02/15
とまと
5
期待しすぎたのだろう。物足りなかった。妖怪たちが実際に物語の中で活躍する話ではない。これは妖怪かもしれないね、と妖怪の存在を思わせる話。それだけ生活の中で妖怪の話が頻繁になされるし日常と切り離せない存在としてあるというところが面白いのだろうけど。ゴーゴリ、ソモフと読んできて、妖怪たちが暗躍する物語を期待してしまっていたので、不満。疑問だった妖怪、魔女、妖女、悪魔などの言葉の使い分けの謎は解けました。各話の前にそれぞれの妖怪の絵と説明がしてあるのが良くて、ここだけコピーしてノートに貼ろうと思ってます。2012/09/18
あさこ
4
冬の寒い日、暖炉の前でちょっとくせのあるおばあちゃんに少し不気味な、でもおかしいような不思議な話を聞かせてもらっている。読んでいるとそんな光景が浮かんでくる。一応ロシアの怪しげな妖怪やら魔女やらが出てくる短編集なんですが、伝説やお伽噺をただ書いているわけではなく、作者独自のユーモアとひねりがきいていて面白い。なにか不思議な不気味なことが起きたとき、日常生活のなかに幻想は容易に入り込むんだなぁ。2009/02/20