内容説明
民衆運動史研究がかつてのような活力を失ってしまった今、民衆史研究はどのように展開されていくのであろうか。日本と韓国の研究者が意見を交換するなかで生まれた成果である本書は、日本だけでなく韓国の民衆史研究者も参加した共同論集である。最近の民衆史研究の方法を踏まえながら、東学農民戦争に参加した農民、「産業戦士」と呼ばれた日本や韓国の労働者たちなどの多様な民衆、アイヌや被差別民、女性などのマイノリティや民衆による彼らへの暴力の問題などを描き出す。日韓の研究者が新しい民衆史を求め、一国史的発想の打破を試みる。
目次
第1部 方法論をめぐる葛藤(メディアを利用しての民衆史研究―近松門左衛門が語る自国認識;民衆運動史研究の方法―通俗道徳論をめぐって;東学農民戦争に対する新しい理解と内在的接近)
第2部 多様な民衆像(東学の布教と儒教倫理の活用;一八九四年東学農民軍の郷村社会内での活動と武装蜂起についての正当性論理―慶尚道醴泉地域の事例を中心に;甲午改革における警察制度改革と民衆の警察認識;足尾鉱毒反対運動指導者田中正造における「自然」―「天」の思想と関連して;民衆の徴用経験―徴用工の日記・記録を用いた分析;産業化初期の韓国における労働福祉制度の導入と労働者の対応―産業災害補償保険制度を中心に(一九六〇-一九七〇年代))
第3部 マイノリティからの視点(マイノリティ研究と「民衆史研究」―アイヌ史研究と部落史研究の視点から;民衆の暴力と衡平の条件;神戸の港湾労働者と清国人労働者非雑居運動;孤独な叫び―植民地期妻/嫁に対する「私刑」と女性たちの法廷闘争;「貞操」言説の近代的形成と法制化―一九四五年以前の朝日両国の比較を中心に;奄美諸島における「周辺」型国民文化の成立と展開―その手掛かりとして)