出版社内容情報
目次 
第一章◎言葉と情感
1 詩を読むことと詩を書くこと
詩に魅せられる 
不朽の抒情詩四作品
人生体験の個性のすべてが含まれる一行
2 古典以前の古典
「わだつみ」「さねさし」「全けん」の深層
「なふ」「ほふ」にみる日本語の起源
「ちしほ」をめぐる誤認
3 吉本文法について
表記される日本語とその特性
「自己表出」と「指示表出」で織られた言葉
第二章◎老齢とは何か
1 老齢への誤認と自己の例
老幼の類似性と現在の社会現象
自分自身の症例の告白
六十才以後の症状と対応
2 意志と行為の背離
老齢とは意志と行為の背離のことをいう
背離が文化と文明を生み出してきたが
3 自他の違い
「自然の順位」のみが老齢の意
「有難う」が自然に出れば
「姥捨伝説」と「手がかり神」の意味するもの
第三章◎国家と社会の寓話
1 社会と国家の関係
社会と国家の三類型
政治、軍事、政府そして国家へ
そして民族国家に至る
2 民族国家の成立
「民族」なるものの捉え方
血縁親和や年齢階程的なものが無力化する
日本列島における「民族」形成
3 この社会で暮らすということ
産業からみる歴史の新段階
第三次産業社会がもたらすもの
4 自由な意志力について
支給される給料の基本原則 
個々の「自由な意志力」の総和をのみ「公共性」と呼ぶ
「自由な意志力」とは何か
5 高度管理社会について
高度管理システムをどこかに含んでいる現代社会
山岸会との対話
レーニン・スターリンの理念的誤り
「被管理者の利益と自由の最優先」原則
「人間力」に行き着くシュンペーターとマルクスの違い
擬似ユートピアを乗り超えるために
はじめに 
この本の表題として『中学生のための社会科』というのがふさわしいと考えた。ここで「中学生」というのは実際の中学生であっても、わたしの想像上の中学生であってもいい。生涯のうちでいちばん多感で、好奇心に富み、出会う出来事には敏感に反応する軟らかな精神をもち、そのうえ誰にもわずらわされずによく考え、理解し、そして永く忘れることのない頭脳をもっている時期の比喩だと受け取ってもらってもいい。またそういう時期を自分でもっていながらそれに気付かず、相当な年齢になってから「しまった!」と後悔したり、反省したりしたわたし自身の願望が集約された時期のことを「中学生」と呼んでいるとおもってもらってもいいとおもう。
ただ老齢の現在までにさまざまな先達、知人、生活、書物などから学んだり刺激を受けたりしたこと、体験の実感から得たものがたくさん含まれているが、すべてわたし自身が考えて得たものばかりで、模倣は一つも含まれていないつもりだ。これがせめて幻想を含めた「中学生」にたいする贈物だとおもっている。
さあ、このくらいにしてあとは読者の理解や誤解の「自由さ」にまかせよう。
二〇〇四年十二月
吉本隆明記
 


              
              
              

