内容説明
当時二十歳の学生が書いた伝説の名作、山尾悠子プロトタイプとしての才能がもっとも高密度に結晶した「夢の棲む街」。その作品世界を現在の作者が再訪する問題作「漏斗と螺旋」を初収録。あわせて読めば山尾悠子の今と過去の文章や創作へのスタンスの違いがよくわかる。山尾作品をリスペクトし、読み込み、自らの創作の糧にしてきた中川多理と川野芽生が挿人形と解説を担当する。若い女性の才に頌されて『夢の棲む街』は、新たな命を輝きをもつ。
著者等紹介
山尾悠子[ヤマオユウコ]
1955年、岡山市生まれ。同志社大学文学部国文科卒業。75年、「仮面舞踏会」(「SFマガジン」早川書房)でデビュー。『飛ぶ孔雀』で、2018年、第46回泉鏡花文学賞、2019年、第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第39回日本SF大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あ げ こ
20
薔薇色の美しい本。夢は浸透し、繰り返される。新たに生き直される。幸福な波及。その結晶。言葉は理だ。法則だ。決め事だ。楔だ。すべてだ。世界そのものだ。破滅さえ予め組み込まれている。その何もかもを網羅し尽くすかのような豊かさと膨大さに、やがて復讐されるだろう。やがて自らさえ呑み込まれてしまうだろう。「夢の棲む街」などもう、不可能だろう、これは誰も作り得ない。誰も穿てない。誰も行けない、ここまでは。言葉は高まり、上昇し行くけれども、自重からは、重力からは逃れ得ない。そのまま浮かび続けることなど出来るはずもない。2022/03/17
ひろ
19
山尾悠子さんの処女作を核とし、関連する話と人形の写真が、その世界をより鮮明に現す。劇場で踊る<薔薇色の脚>たち。演出家の言葉によって肥大化した脚は、跳ね回るように動き、衆目に晒される。一方で人々が見ない影には醜怪さが潜んでいる。通常は美しいものとして描かれる天使や人魚も、ここでは悍ましい姿を晒す。性や美や若さを搾取され、削り取られていく者たちが、寓話として描き出されていると感じる。いつものように言葉や文章に惹き込まれる上、小説として表出してくる前の、根底にある想いが伝わってくる作品だった。2024/01/08
Valkyrie
15
購入前は既読の「夢の棲む街」「漏斗と螺旋」の2作の他に10ページ程のエッセイ「薔薇色の脚のオード」のために3,000円はどうかと考えたけど読み終わると購入して正解でした。薄桃色(薔薇色)の紙の上の文字を追って「夢の棲む街」「漏斗と螺旋」を連続して読むことで漏斗の街と劇場の世界にどっぷり浸れるのだ。外箱に描かれた星のきらめきと螺旋のデザインも良い。装丁も含めての「新編 夢の棲む街」なんだな。2023/05/15
ゆう
14
出会えて良かった。なぜか読んでいると眠くなるので、毎夜少しずつ読み進めた。落ち着いた文章だからか、難読漢字がときどき出てくるからか。くらくらする雰囲気がむんむんしているのも関係がありそう。 中川多理さんの人形は、ひと目見たときは受け付けられなかったのだが、本文と川野芽生さんの論考を読むと素晴らしいものに思えてくる。受け取り方、感性と心の持ちようでこうも違って見えるのか、と興味深い。 本書を読んでいる途中で川野芽生さんの作品に興味をもったので、時期よく彼女の論考を読み、これはすぐに買って読みたい、と思った。2022/05/20
沙羅双樹
9
ピンク色の紙の上の活字を追っていくと世界に引き込まれる。圧倒的筆力、そして、中川多理の球体関節人形と川野芽生の解説が世界観を更に盛り立てている。もはや言葉はありません。山尾悠子師匠ありがとうございます。2022/10/12