内容説明
江戸の片隅。捨て子のゲンさんは生きる意味すら知らない物乞い。御家人だったソウさんは視力を失ったことで妻娘と離別、過去を捨てた按摩。二人は掌に画を描き合うことで心を通わせていく暮らしの中、赤ん坊を拾う。一心にその娘を育てる日々の中で見出した希望の光とその行方…。第一回京都文学賞受賞後書下し第一作!
著者等紹介
松下隆一[マツシタリュウイチ]
1964年兵庫県生まれ。作家、脚本家。第10回日本シナリオ大賞佳作入選の作品『二人ノ世界』が永瀬正敏主演で同名映画化。著書に第一回京都文学賞受賞作『羅城門に啼く』(新潮社)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
46
視力を失い、按摩師となったソウさんと聴覚障害のゲンさん。2人が出会うことで失っていた幸せをつかむように思えましたが、純粋にそれだけの物語だとは思えませんでした。ほっこりしたと思えば厳しくて、葛藤や裏切りもあるリアルさが感じられました。それでもお互いを想いあう大切な気持ちがあるのですね。2025/01/11
けんとまん1007
46
人は何を思う時に前へ進めるのか。それは、守るべきものがある時も、その一つではないかと思う。人が人であるというのは、どういうことなのだろう。それは情・・・人情、愛情ではと思う。世知辛くなる一方の今の時代、この国においえ、救われる思いがした。利己が蔓延る中で、利他に生きること。お互いのことを思うこと。ここに立ち返ることの大切さを考えた。2021/04/30
Natsuko
20
江戸時代、視力とともに家庭も失い按摩師となったソウさんと、聴覚障害をもつ物乞いのゲンさん。二人が出会い心を通わせ、諦めていた普通の幸せを味わう…のだが、心洗われるストーリーかといわれるとそこが良さではないような。二人が自分達だけのコミュニケーション手段を作り出す過程は感動的ではあるが、必要以上にピュアに描かないのがいい。人として当然持つ欲や葛藤や裏切りの内面描写がリアルなのもいいし、頑固で暴力的なゲンさんが困ったちゃんなんだけど結構好き😅2024/01/12
ふわりん
9
片や目が不自由で、片や耳と言葉が不自由な老人二人が江戸時代にどうやって暮らしていくのだろうと思っていた。案の定この二人の上には次から次へと難問が降りかかってくる。でもソウさんの機転の良さがゲンさんの真っ直ぐ過ぎる行動を何とか抑えて、本当にコツコツ細々と生きていた。サヨが成長し大きな難題を抱えるようになりゲンさんとソウさんは一世一代の勝負に出るが、その辺りになると無事に脱出できるのかと先を急いで読んでいた。二人の周りにたくさんの支援者がいたことはとても大きな救いだったと思う。最後ソウさんは報われたのかなぁ。2025/03/01
spatz
9
人情もの、といえばそんなところもあるのだけど、でも、世の中にはどうにもならないこともあるんだよ、がいつもまじる。生きることの切なさを描く人なので、どうしても、切ない展開になるのではないかと思いながら読んでしまう。このひとの描くものはいつもそんなかんじだ。なんとも評し難い、がいつも読む。さらさらよめるし。 230頁のソウさん、はゲンさん、の間違いではないかな?