内容説明
Kは、そして先生は、なぜ自殺したのか。明治の精神に殉死するとはどういうことなのか。誤読の厚いヴェールを剥がし、漱石思想の転換点となった稀有の名作を縦横精緻に読み解く。自己本位から則天去私への道筋を鮮やかに照らし、漱石最晩年の境地を炙り出す。
目次
第1部 『心』の秘密(先生と私;両親と私;先生と遺書)
第2部 漱石の挫折と再生(修善寺の大患と思想的挫折;誰がなぜ殉死したのか;則天去私と『心』の装幀;親鸞から法然へ)
著者等紹介
今西順吉[イマニシジュンキチ]
1935年、東京都に生まれる。1957年、東京大学文学部印度哲学梵字学科卒業。東京大学大学院修士課程・博士過程を経て、1964年~66年、ドイツ、ゲッティンゲン大学留学。北海道学文学部教授・文学部長、国際仏教学大学院大学教授・学長・理事長を歴任。北海道大学名誉教授。専門はインド哲学(インド哲学・仏教)、近代日本思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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homkithi
2
漱石の『こころ』について細かく検証していく前半と、その背景を探る後半。Kはなぜ死んだか。先生に裏切られる前に自分自身の心に裏切られていたと言うが如何。覚悟とは自己矛盾を率直に認めることであったか、等々。一番の読みどころは最後、『こころ』は貧しい、名作ではない、などと主張する先行研究や批評に対して、著者が怒りと嘆きを爆発させるところ。「極めて重要な哲学的課題を考察する上で、漱石は避けて通ることのできない存在である」とまで言う著者は過褒のように思えますが、研究対象への著者の情熱には好感が持てました。2010/06/01
BebeCherie
1
This book didn't give me any new views. If I'd read this a couple of decades ago, it must have been impressive to me.2014/03/03
wanted-wombat
1
先行研究に対しての批判的な眼差しには、著者の「こころ」に対する客観的な評価と主観的な愛を感じずにはいられません。テクスト論など、一見使い勝手のいい道具に振り回されてきた批評を嘆き、漱石の文学の理解困難な部分を括弧に入れてわかりやすくなったと歓迎する我々を斬る。著者の研究は極めて真摯で、できるだけ本文に即し、また漱石という人とその時代を考慮に入れて理解困難な、これまで思考停止されてきた部分の読解を試みる。良質な文学研究だと思いますし、大変面白かったです。2013/08/29