出版社内容情報
信州奥裾花・鬼無里村の木彫作家、高橋敬造の作品+寺島純子によるエッセイ。山里の光とともにやさしくあたたかく語りかけるモノクロームの世界。
鬼無里の木遊人/気配だけの場所/空からの言葉ヨ/まきごやの樸散人/傷痕の物語/地上の樹根/夢の住処
イコンと仏の間で……異形なるものに魂を刻む人・高橋敬造(村石 保)
(本書・後記より)
彫刻家でも仏師でもない敬造さんが十数年の間に黙って彫り続けてきた作品たちは、ひとつとして同じ気配のものはなく、あるものはモダンに、あるものはユーモラスに、新たな生命を授けられながら眠っていた。部屋の片隅で誰に眺められることもなく佇んでいる作品たちに向き合ったとき、みんなが、この時を待っていたとばかりに語りはじめているような感覚がした。この子たちを、もっとたくさんの人に見せてあげたいと思った。
本来、誰かに見てもらうために作ったわけではないのはわかっていたが、作品ひとつひとつに授けられた新しい命を、世に放ってもいいんじゃないだろうか。そんな気がした。それで僭越ながら、今回、本という形にして紹介することにさせていただくことにした。
本のタイトルは「マザー」。なんで「母」なのか、と随分まわりの人から聞かれたけれど、私には「マザー」以外の言葉は浮かばなかった。本人が意識しているかどうかはわからないが、敬造さんの創作の源にあるものは「母」そのもののような気がしたからだ。木に立ち向かうとき、ノミを入れるとき、敬造さんは、ひとつひとつの木のそれまでの人生に思いを巡らし、「それでいい、だからいい
薪や傷のある木、変形した木の根……役に立たない木の塊たちが、高橋敬造の手でみずみずしい造形となって、生のメッセージを投げかけてきます。