出版社内容情報
1970年代を境に日本の子どもたちの「脳」の発達に変化が現れはじめた。時を同じくして表面化する登校拒否・いじめ・キレ…そして学級崩壊。かつてない残虐事件までが、子どもたちの周囲に起こりはじめる。
いま、子どもたちにいったい何が起きているのか。子どもたちの「脳」を変えてしまったものは何か。
30年の歳月をかけた研究者たちのプロジェクトが、子どもへ、熟年へ、そしてある学級崩壊の改善へとチャレンジした。[学級崩壊に立ち向かった実践レポートを掲載]
人を知るには脳を見よ[GO/NO-GO課題による実験]
●脳のアクセルとブレーキ●脳はこうして大人になる●前頭葉にココロあり●「行くな」という電気信号
日本の子どもの脳が変わった[大脳活動の型の特徴的変化]
●脳の発達が遅れてきた●中国で出会った子どもたちの瞳には●大人に近づけない子どもたち●中国でもそうなのか
なぜ子どもの脳は変わったのか[子どもの生活環境の変化]
●ポイントは1979年●外で遊ばなくなった子どもたち●テレビっ子、室内っ子●群れて遊ばなくなった子どもたち●テレビゲームの登場で…●まだ中国には「子どもの群れ」があった
「ふれあい」がなくなっていた[日本の子どもを変えたもの]
●いじめ・登校拒否・キレる子ども●人は人に癒される●イメージ療法の原点はコミュニケーション●家族のふれあい時間がなくなった●コミュニケーションが欠落すると●愛情が生命科学の壁を超える
キレる子どもは前頭葉も運動不足[運動で脳も育つ]
●運動も人と人のふれあい●運動は脳を育てる●体を使った遊びの重要性●スポーツは人生の縮図…かも●前頭葉の運動不足
子どもだって熟年だって輝きたい[熟年体育大学の試きた●問題は見えないところに●連携プレーで事件を解決
自分で学ぶ力、自分で生きる力[子どもたちの今後の課題]
●ふれあいと家族を取りもどそう●便利になって感情もどこかへ行った●受け身の生活に慣れすぎて●豊かさの果てにあるものは●どんな状況でも生きていける力を
はじめに
日本が高度経済成長にはいった一九六〇年頃から、日本の子どもがどうもおかしい、何か変だと言われはじめました。一九七〇年代になると産業の発展にともない、各地で「公害」が問題になってきました。保育園の先生や学校の保健室の先生から「最近の子どものからだがどうもおかしい」という声が出はじめ、「転んでも手が出ず、地面に顔をぶつけて前歯が折れた子がいる」「背筋が妙に曲がっている」「棒に登っていて、突然手を離して落ちた子がいる」といったことが言われはじめます。そしてこうした話は全国各地で聞かれるようになります。その後、テレビの普及も重なり、視力不良の子どもが増えはじめ、中学生の「不登校」の子どもが増加に転じはじめます。
一九七八年、日本体育大学の正木健雄氏が中心となり、この日本の子どものからだのおかしさについて、全国的な実感調査が行われました。この調査結果を基にしてNHKは、特別番組「警告 子どものからだは蝕まれている」を制作・放映し大反響を呼びます。
翌年の七九年には、日本の中学生の校内暴力が多発し、学校教育に大きな波紋が投げかけられました。さらに日本の子どもたちの問題は「校内暴力」にとどまらず、まったのでしょうか。正木氏らは、子どものからだの調査の一環として一九六九年から子どもの脳を、ある方法によって実験し、調べてきました。そして十年後の一九七九年に、日本体育大学教授の西條修光氏らが再び日本の子どもたちにこの実験をおこなったところ、大きな変化が見られました。さらに、私を含む、柳沢秋孝氏(松本短期大学教授)、篠原菊紀氏(東京理科諏訪短期大学講師)らが九八年に同じ実験をおこなったところ、今度は七九年のデータと類似するという結果になりました。このような実験結果から、日本の子どもの脳は一九六九年から七九年の十年間で大きな変化を遂げ、その後は変わっていないことが統計学的にもわかってきました。
いったいなぜ、日本の子どもの脳は一九六九年から七九年の十年間で大きな変化を遂げたのでしょうか。その原因について私たちが今まで追求してきた研究成果を報告しながら、この問題について皆さんといっしょに考えていければと思っています。このことが契機になり、現在日本の子どもたちに起こっているさまざまな問題に対する解決の糸口になれば、このうえないことだと思っています。
本書はどこから読んでもよいように一応の配慮をいたしました。
不安を抱える親たちへ、行き場をなくした教師たちへ!