目次
サー・ジョン・ソーン美術館―家族なしの“家族の肖像”
〈建築〉と逸脱
ソーン作品の建築ドローイング
サー・ジョン・ソーン美術館―19世紀の陰画
図面 サー・ジョン・ソーン美術館
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
332
19世紀の初めに建てられた自邸が、彼の膨大なコレクション(古代エジプト、古代ギリシャ、古代ローマの建築物の破片や装飾品など)を蔵して、現在は美術館になっている。ジョン・ソーンは夢見る人であったようで、彼の構想した建築物は、あたかも古代ローマの再現であるかのようだ。実現したイングランド銀行にしてもロトンダを擁し、パンテオンの趣きである。彼の自邸はというと、曲線と直線とが稀なる融合を示し、素材の上からも木材の質感と金属とが幸福な調和を果たしている。一方、空間からの光と細部の煩雑なまでの装飾との混淆も面白い。2022/01/18
夜間飛行
76
設計者が住みながら造り続けたというサー・ジョン・ソーン美術館。古典主義からの軽やかな逸脱。畳み込まれた空間は反射、透過、屈折など制御された光によって統一され、「住」と結びついた独特の階調を奏でている。豪奢でありながらシンプル。古典主義の行き詰まりという時代の波が寄せていたことは、ピクチャレスクな田園画や猥雑な民衆画に混じってピラネージの版画が多数展示されていることからもわかる。大がかりな〝新〟古典主義とは一線を画した設計者ジョン・ソーンの私的で密やかな語り口が、時代を超えてこの空間に崇高の美を留めている。2019/07/07