内容説明
西欧中世の王侯はなぜ、「あだ名」とともに呼ばれることが多いのだろう?謎に満ちた「あだ名文化」の実態とその背景を、史料に拠りつつ鮮やかに解き明かし、命名や家門にまつわる疑問の数々に光をあてる。巻末に“中世ヨーロッパ王侯「あだ名」リスト”併録。
目次
ヨーロッパ中世の人びとの名前をめぐる疑問
第1章 ヨーロッパ中世はあだ名の宝庫
第2章 「カール・マルテル」の謎―「あだ名文化」の諸相(一)
第3章 ピピンはいつから短躯王と呼ばれたか―「あだ名文化」の諸相(二)
第4章 姓の誕生―ヨーロッパの「家名」をさかのぼる
第5章 中世の命名方法とその背後にあるもの―「あだ名文化」の背景を探る(一)
第6章 中世貴族の家門意識はいかにして形成されたか―「あだ名文化」の背景を探る(二)
第7章 混迷の「ユーグ・カペー」―「あだ名文化」の諸相(三)
著者等紹介
岡地稔[オカチミノル]
1952年生まれ。南山大学外国語学部教授。専門は中世初期ヨーロッパ史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さつき
80
中世ヨーロッパの王たちのあだ名は、なかなかインパクトのある物が多くて以前から気になってました。獅子心王などはともかく、短躯王とか禿頭王とか無為王とか、それって悪口なんじゃ?と思うような名前が沢山。この本を読んで本人が生前そう呼ばれていたわけでは無いとわかり納得しました。専門書のわりには読みやすくて、あだ名から姓が誕生した経緯や、中世の人々の名付けから見える親族意識など面白かったです。2020/09/29
kasim
27
獅子心王、赤髭王…。ヨーロッパの王侯へのイメージを盛り上げてくれる仇名の数々。なぜこんなに多いのか。それはゲルマン諸族に姓がなく、しかも親族で同じ名を使い回すので区別をつける必要が出てきたから。現代人は「カロリング家のカール・マルテル」というけど実は「カールが大勢いる一族中の鉄槌という仇名のカール」という意味。王侯は血縁の偉人や仇名、地方の有力者(貴族)は本拠とする城の名、庶民は父称や職業から次第に姓ができていく。まとめると単純そうだけど、学術書らしい丁寧な論証でした。2020/01/23
rosetta
25
佐藤賢一の『王の渾名』を読んで物足りなかったので手にしてみたが、これは読み物ではなくて研究書。12世紀までは貴族でさえ個人の名前だけで苗字を持たなかったとは驚き。まあ学生時代のレポートや卒論を思い出した。2024/11/17
サケ太
18
視点が面白い。ヨーロッパで著名な王(イギリス、フランスなど)の名前を調べると“あだ名”に目がいってしまう。その“あだ名”がどういったものなのか、なぜつけられているのか、という事に迫っていく。ここから、ヨーロッパでの性の誕生、家門意識に繋がっていく。当時の人間につけられたもの、後世の人間につけられたもの。個人的には巻末の《あだ名》リストを読むだけでも楽しい。インターネットでは十分な情報が出てこないような人物たちもいて非常に気になる。『我慢公』、『目覚まし公』、『泣き虫伯』など由来不明のものもあって面白い。2018/08/22
さとうしん
17
ヨーロッパ中世の「短軀王」「獅子心王」の類のあだ名から出発して、それが公然性を持つものであったこと、中世の命名法と主導名の誕生、祖先の認識、家系・同属意識・家名の形成と、議論がどんどん広がっていく。特に同属意識が可変的であるという話は日本・中国など他の地域の王侯を考える際に示唆を与えてくれる。2018/07/10