内容説明
本作『猟人日記』にインスピレーションを得てトルストイは『森林伐採』『三つの死』など、チェーホフは『葦笛』『猟兵』、国木田独歩は『武蔵野』、島崎藤村は『千曲川のスケッチ』を書き上げた。ありのままの自然と人間の姿を素直に知ろうとする自然主義文学がここから始まる―。ヘミングウェイが絶讃する作品群。
著者等紹介
ツルゲーネフ[ツルゲーネフ][Тургенев,И.С.]
1818年~83年。19世紀ロシアの代表的な小説家。ロシア帝国の貴族。『猟人日記』は彼の出世作であり、地主や農民の姿をありのまま誠実に描いた本作によってアレクサンドル二世は農奴解放を決意し、国木田独歩や島崎藤村は自然主義文学を志したと言われる
工藤精一郎[クドウセイイチロウ]
1922年福島県生まれ。ハルビン学院卒業。ロシア文学会会員。日ソ文化交流機関講師、関西大学教授等を歴任。日本に多くのロシア文学作品を紹介した。2008年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぺったらぺたら子
17
夢中で読んだ。農奴への優しい視線や憐れみもあるが、共感は無く、飽くまで上から目線の部外者・観察者によるスケッチ。互いに異物であり両者が本当に交じり合う事はなく、干渉しようとした時、常に弾かれる事となる。その立ち位置。警戒を解くには寝たフリするしかない。それは文学の、農奴階級という異世界への侵入であり、残り半分の世界との遭遇なのだ。やがてその目線がぐっと下がり対象と合体した時、陰鬱さと不条理感に深く包まれて、ユーモアとペシミズムが滲み出してチェーホフになるのである。その前の、瑞々しさと無垢さと開放感が良い。2018/07/18
林克也
2
一つ一つの作品は、読み物としてそこそこ面白かったが、今後、ツルゲーネフを読みたいという気にはならなかった。 この本を読んで、この時代のロシアの貴族の暮しと、その下でしぶとく生きている支配されている人々の関係にどうしょうもなく悲哀を感じた。貴族たちは何を心の糧にして生きていたのか。鉄砲で鳥やウサギを撃つことに、毎日毎日こんなに力を注いでいて、虚しくないのか・・・・・・。 2013/01/25
金北山の麓に生まれ育って
1
【字が大きく挿絵が良い】岩波文庫で読んでたら字が小さくて(年寄にはキツイ)この本を見つけて乗り換えようとしました、「ベージンの草原」で。読み比べて岩波の方が不親切だけれど文のテンポが良いのです、読み比べてみると個々の単語には丁寧で挿絵があって抄の良さは沢山ありますが総合的には文庫に軍配が上がるかも。文庫(上)を読み終わりこの抄を先に読み切り。独歩「武蔵野」や藤村「千曲川のスケッチ」の元本だけど農奴制の悲惨さを描いた話は一つも採られず、明治も今も、この作品の日本での受け入れられ方は変わっていないのかも。2021/08/17
坂津
1
二葉亭四迷による言文一致の翻訳で知られる「あいびき(本書は工藤精一郎訳)」を収録した、ツルゲーネフの記念碑的短編集『猟人日記』。本書では全25編のうち10編が収録されており、全編を読むためには絶版となって久しい新潮文庫などを手に取る必要がある。だが、本書は抄訳ゆえに読者が試し読みしやすい機会を提供しているとも言える。ロシアの仔細な自然描写を基礎としながら、主人公の貴族階級の猟人と各地の農奴のやり取りを収める。「エルモライと粉屋の女房」「生きたご遺体」など、ほのかな苦味が余韻として残る短編がとりわけ印象的。2021/03/28
kinaba
0
見たこともない自然が目に浮かぶ。日本で自分がそれなりに親しんでいるような森とはっきりと違う風景であるのに、そうあるように脳裏に浮かぶようで面白い2015/06/12