内容説明
二〇〇六年フライアーノ賞(国際賞)受賞。英、仏、独、蘭、波蘭、韓ほか諸外国で翻訳紹介。アルジェリア人の著者がイタリア語で書くトランスナショナル文学の一級品。ミステリー仕立てのイタリア式喜劇?ミステリーともコメディとも名づけるとすればそれは真っ赤な偽り。ある殺人事件をめぐる11人の証言、しかしそれは人のよって立つ安住の場をめぐる考察であった―。
著者等紹介
ラクース,アマーラ[ラクース,アマーラ][Lakhous,Amara]
1970年、アルジェに生まれる。幼少期より、古典アラビア語、アルジェリアの現代アラビア語、ならびにフランス語が併存する多言語的な環境の中で暮らしていた。95年よりローマ在住。アルジェ大学哲学科を卒業したのち、ローマ大学(サピエンツァ)で博士号を取得(文化人類学)
栗原俊秀[クリハラトシヒデ]
1983年生まれ。京都大学人間環境学研究科博士後期課程在籍。現在、カラブリア大学文学部に留学中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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rinakko
13
アルジェリアからイタリアへ渡った作家の、アラビア語による小説『噛みつかれることなく雌狼に乳を飲ませてもらう方法』を、自身がイタリア語にリライト…という経緯の作品。多民族からなる移民とイタリア人、更には互いを見下して認め合わないイタリア人同士にも、頑迷な偏見と相互不信から勃発する“文明の衝突”は絶えない訳で、面白がっている場合ではないけれど面白かった(ピッツァへの憎しみw)。そして遣り切れないところ、まさに悲喜劇だ。“衝突”が起こる場の中心には、漂流者たちを乗せて揺らぐ舟の如きエレベーターが据えられている。2016/05/25
きゅー
6
移民に対するディスコミュニケーションがコミカルに記述されている。しかし問題はイタリア人と移民との間だけではなく、同じイタリア人同士でも出身が異なるせいでお互いに憎悪し、軽蔑していることが顕わになる。こうした重苦しい問題を扱っていながら、本作は実に軽やかに物語が展開する。アメデーオといういくぶん謎に包まれた男を周囲からじわじわと取り囲んでいくようにしていつつも、実のところ照明が当てられているのは、関係者の視野狭窄の様子。愉快だけど、皮肉のスパイスの効いた刺激的な一冊だった。2013/03/21
茎わかめろん
4
エレベーター内で起きた殺人事件。犯人とされるアルジェリア移民アメーディオの関係者11人の証言。夫々がただ好き勝手に語っているだけのようで、移民についてイタリア人についての考察になっていく。馬鹿馬鹿しさを醸し出しつつも読み進めると「イタリア式喜劇?」の?が染みてくる。いかにして、ともに生きるか。2013/02/04
qoop
0
殺人事件・移民問題・南北対立・贔屓のサッカーチーム…といった争いの火種が目白押しで、お互いにいがみ合い、偏見を凝り固まらせ合うことで生じた現代イタリア版・藪の中。彼らの中の〈イタリア人〉とは誰なのか。〈イタリア〉とは何なのか。エレベーターに象徴される空虚な中心をめぐって展開する喜劇に、微妙に展開予想をそらされ続け、最後は放っぽり出されたかのよう。呆気に取られるような読後感は実に印象深い。ちょっと忘れ難い後味かもしれない。2013/05/24
chokujin
0
すみません。本当は半分まで読んで、最後の章に飛んだので読み終わったとは言えないかも。いろんな人種の登場人物達のインタビューと一人の日記を交互に読む構成で、それぞれが互いにいがみ合い、誤解し合い、非難しあって決して交われない様子が生き生きと描かれているのは面白いのだが、物語好きの僕としては、筋が進んでいかないことにとうとう耐え切れなくなったという始末。いつか別の気分の時には読了できたかも。2012/09/13