内容説明
厳寒のロシア、焚き火に暖をとる大学生は千九百年以前、同じように焚き火に手を翳ざしたパウロの苦悩に思いが到り、過去が現在に直に繋がっていることに気付いた。そして、湧き出る力を覚えたのだ。これは正に希望そのものであろう。ロシア語の響きが補う豊饒さを、豊かな語義で補完する新訳と34頁に亘る奔放な絵画で再現するチェーホフ至宝の短篇世界。
著者等紹介
チェーホフ,アントン P.[チェーホフ,アントンP.][Чехов,Антон П.]
庶民の子として生まれ、中学の頃から苦学を重ねた。モスクワ大学医学部在学中も家計を助けるため、ユーモラスな短篇を多数の雑誌に発表。社会的関心も高く、結核を患いつつ社会活動や多彩な創作を展開した
ザトゥロフスカヤ,イリーナ[ザトゥロフスカヤ,イリーナ][Затуловская,Ирина]
1954年モスクワの画家の家庭に生まれる。幼少時から詩を創り絵を描くが、絵画とグラフィックを正式に学び、最初の個展は1989年のロンドン、以後世界各地で開催。2002年モスクワ美術家同盟よりディプロムを授与される。フレスコ、絵画、陶器、書籍デザイン、詩作、刺繍など広範囲に活躍
児島宏子[コジマヒロコ]
映画、音楽分野の通訳、翻訳、執筆に広く活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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にゃおんある
9
ロシアの地方では電気のない生活をまだしていると聞いています。宗教的な戦争も終わる気配すらありません。飢えとか寒さとか宗教、人間を支配している問題について、ルケーリヤのようにただ支配されるほかはありません。かつてペトロがそうだったように否認するでしょう。また、ユダのように……自分の回りを見渡しても同じ問題の縮図なのです。そう思い至ると気分は落ち込んで家に帰る気がしない? いやいや帰りたくなってしまいます。チェーホフの中で一番好きな話です。シリアにおいて一刻も早く内戦が終わることを願わずにはいられません。2017/04/09
保山ひャン
3
神学生が老いた女性とその娘に語る、ペトロの話。イエスがペトロに「鶏が鳴くまでに三度わたしを知らないと言うだろう」と予告し、その通りになってペトロが号泣する聖書の一節。女はその話に泣く。彼女の人生にもペトロと通じる出来事があったのだろう。それが何だったかは語られないが、人生の深みを感じさせてあまりある。読み終わってからの余韻がえんえんと続く。なんでもないようなエピソードなのに、心を揺り動かす名作だと思った。2016/01/15
ちあき
2
現在と過去をつなぐものとしての希望(あるいは絶望?)についての物語。『ロスチャイルドのバイオリン』と響きあう作品のように思えた。ぼくはキリスト教の信仰者ではないのだけれど、文章なし挿絵だけのラスト16ページには感動してしまった。まさにイコン。2009/04/10
mi2
1
人間の心の中には、大きな川が流れていて、自分が経験したことがないことでも、川からすくいあげて感じることが出来るのだと思いました、とても短い本ですが深い感動を与えくれました2022/07/04
nickandhannah
1
とても味わい深い文章でした。内容は一見、簡単なようですが、そこには奥深さがあります。聖書の出来事が、時間を越えて、今のこの時代に出来事となる、それはとても感慨深いものだと改めて思わされました。言葉の力を改めて感じる一冊です。短いので、何度も読み返すと、更に味わい深いものになると思います。2016/07/23