内容説明
大寺さんのさりげない日常生活のうちに、陰翳ゆたかに掬いあげられる深い愉悦と哀しみ。十七年にわたって書き継がれて、小沼文学の至宝と評されながら、これまで一本に纏められることのなかった大寺さんもの連作全十二篇を集成した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
120
大寺さんシリーズの短篇ばかりを集めた作品集。主人公の大寺さんは先生をしている。下の名は語られず、奥さんも細君としか出てこない。でも娘さんの名は出てくる。物語のそんな不思議なとぼけた感が何か良い。話は主に家族や友人、疎開先の人などとの雑多な日々の回想。そこに唐突に人を失くす話が出てくる。喪失は日常のひとつということを思い出させられる。大寺さんは人生は判らないと言う。彼は他の場面でも判らないを口癖にするが、無理に全てを判ろうとはしない。彼の話に惹かれるのは風情と叙情もあるが、その無理をしない姿もあると思った。2023/01/11
NAO
62
【寅年にネコ本を読もう】大寺さんものを集めた短編集。さまざまな年代の大寺さんの日常が描かれているが、そのほとんどが老年になってからの回想である。戦前の、まだ緑豊かだった東京の郊外。戦時中の東京郊外の話、疎開先の話。病気で臥せているときに飼っていた犬の話。会わなくなって何年もしてからふと思い出すかつての同僚のこと。特別なことなどない。それでも月日は移ろい、年を経て、かつていた人はいつの間にかいなくなっている。懐かしきロング・ロング・アゴー。そんな世界に生きていること。それも、悪くない。2022/04/19
ステビア
16
非常に良い!「死の匂いが漂っている」と他の方が書いてらっしゃるが自分もそう思う。穏やかな日常を描いているのどけど、どこか物悲しい雰囲気が漂っている。雰囲気が小椋佳の曲に似てると思った(笑)字面が似てるだけかな。ぜひ全集が欲しい。2014/07/09
ぱせり
14
やることも言うことも割と独りよがりで、偉そうよ。しじゅう苦虫噛みつぶしたような顔の朴念仁。しかし、根は律儀で真面目でちょっとかわいい。(くすっ) 大寺さんの日常は親しい人を次々に見送り続けているようだ。大寺さんは乾いた大地の上にひとりすっくと立って居る樹。立ち尽くす以外できない不器用で寂しい樹なのだ、と思う。その姿に慕わしさのような思いが湧く。2016/01/22
ホレイシア
7
初めての作家さんで一種の賭けだったが、見事に当たった。ページをめくれば、ほんの少し前の時代の不便でもゆったりとした贅沢な世界が広がる。梨木さんの「家守」あたりがお好きな方にお勧めしたい。個人的にはな函入りの本が大好きで、抱きしめてしまいたいほど嬉しい。出会えてよかった1冊だ。2009/10/31
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- 和書
- 怖い顔の話 角川文庫