内容説明
太平洋戦争末期、空襲で家を焼かれ、家族とともに路頭に迷いかけていた“僕”は、縁あってある裕福そうな邸に住み込ませてもらうこととなる。邸には上品そうな女主人と病気の娘の二人が住んでいるだけで、夜になるとどこからともなく悲しげにすすり泣く声が聞こえてくるのだった…。戦争という時代の狂気を背景に驚くべき事実が明かされる表題作の他、“女”シリーズ六篇を含む、幻想の物語全十一篇を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
195
各話とも夢幻のような女の人の話で、ホラーだけれど行く先々の歴史や風土を丹念に描いている。表題作は、空襲で家を焼かれた少年が能面のような和服婦人に導かれ静かな屋敷に引き取られる話。黒光りのする廊下に面した部屋部屋の贅沢さ、便器から立ち昇る杉の香り、どこからともなく聞こえる病気の女の子の声や、お咲さんの運ぶ血と膿を湛えた洗面器。戦時にあって異常なまでの美に挑み掛かる少年の言動も哀れだが、彼の眼に映る人と物の全てが哀れだった。原爆投下や敗戦を予期し滅んでゆく母娘に戦慄させられる。これも一種の戦争文学か。19682021/08/05
ラルル
28
創作とは思えない妙なリアリティがゾクリとさせられます。この言い知れぬ不安感が日本の怪談らしくて良いですね。今では件も都市伝説となりましたが、件の伝説は大昔から在りました。それが新耳袋で有名になり、語られ、語られ、とうとう都市伝説化した。新耳袋発祥の山の上の牧場もそうですね、語られ語られ都市伝説化。そう考えると新耳袋って凄い影響力だったんだなぁと思います2014/09/25
スイ
19
怖い怖いと聞いて身構えながら読んだせいか、怖さよりも哀しさを強く感じた。 表題作と「お糸」が好き。 どれも上手かったけれども、ほとんど全編、女性が酷い目に遭っていてしんどかった…挙げた2作は、その点は酷くなかったからも好きな理由の1つ。2024/11/28
すしな
13
065-21.くだんのははは、自分の今の行いが子孫に影響を与えると思うと真面目に生きないといけないなと思いました。 060-21.お糸ですが、時をかける少女のフォーマットですよね。アニメ化か実写化されないですかね。2021/06/01
てっちゃん
11
小松左京さんの怪談よりの短編集。表題作の「くだんのはは」は既に何度も読んでいて、ストーリーも結末も知っているけど、それでも面白い。日本の怪談小説の中では名作中の名作だと思う。それ以外では「お糸」の時代劇版のSFも良かったけど、「~の女」という一連の女シリーズがどれも情緒があって本当に面白かった。この本を編集したのも日下三蔵さん。ミステリーからSFからホラーから本当に範囲が広くて楽しめる本を出してくれていて有り難いです。2021/01/17