内容説明
「無縁者」の声を同じ視点から聞き取り、それを語り継ぐこと。時間の経過とともに、眩さばかりが強調されがちな歴史の中に埋もれ、次第にかき消されてしまう人々の見た光景にこそ、その時代の真実がある。大阪釜ヶ崎の三畳ドヤに三十年住みつづけ、昼は現場労働、夜中は史資料三昧、休みの日には調べ歩く。“この世”のしくみと“モノ”の世界を徹底的に明かした問題作。
目次
第1章 生い立ち有為転変
第2章 若い命のかぎり
第3章 第一次釜ヶ崎暴動の渦中に飛び込む
第4章 港湾労働の高波に揉まれつつ
第5章 よう見てみィ、これが現場労働や!
第6章 博覧会の輝く電光の影に
第7章 震災が見せた神戸の素顔
第8章 APEC大阪開催が残した負の遺産
第9章 釜ヶ崎三百六十五日
終章 平井正治さんを囲んで
著者等紹介
平井正治[ヒライショウジ]
1927年大阪市生まれ。1961年より大阪釜ヶ崎に居住し、日雇い労働。住民運動などにも参加。1966年、大阪港登録港湾日雇い労働者となり、全港湾労組大阪港支部執行委員、副委員長など歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鷺@みんさー
35
先日読んだ「山谷ブルース」は、「外国人がドヤに住んで日雇い労働してみたレポート」で終わっていた感があるが、こちらは骨の髄まで、と言えるほどの釜ヶ崎の住人、かつ様々な「事件」の生き証人であり、その背景もふんだんに語ってくれているため、多角的に見ることができ、興味深かった。それにしてもドヤ街というのは、山谷も釜ヶ崎も、江戸時代からの成立過程は似たようなものなんだなぁ。タイトルも表紙も恐ろし気ですが、語り口調の関西弁をテープ起こしで書かれているため、どこかやわらげる効果もあります。2017/04/14
kamakura
1
平井正治さん。こんなに博覧強記だったとは。大ベテランの労働運動活動家は、学者顔負けの知識と構想力で、釜の成り立ちと日本経済を底の底から把握していた稀代の歴史家であったわけだ。対決相手(資本・その最下層のやくざな連中)に公式論やさわやかな弁舌ではなく、事実と体験をもって歯向かった。現場から離れず(賢さを武器に「成り上がれた」のに一切拒否)、地べたの言葉で語っていった。どこにも依拠せず(住民登録をしなかった)、我が身ひとつで「現実」に突入する人間の語りとして、釜ヶ崎や労働運動に関心がない人にもおすすめしたい。2020/04/30