内容説明
浄土教は禅と共に大乗仏教における二大潮流として考えられている。禅浄二門がしばしば対比的に論じられるのも一般的である。しかしながらこれら禅と浄土との両者が鮮明なかたちで対比的に見られるようになるのは中国における禅の成立以後のことであり、禅が自己の立場をそれ自体として絶対化する過程においてその根底において一つであったはずの浄土門が禅とは異なるものとして別立てされていった経過がたどられることになるのである。それは浄土教自体にとっては不本意なことであったかも知れない。本論集もその論究の基調として、単なる禅に対立する浄土教ではなく、むしろ禅をも本来的にみずからの内容としている大乗仏教そのものとしての浄土教、すなわち浄土仏教についての論究を試みた。それ故にかかる浄土仏教に関する論考は、従来、浄土宗や浄土真宗等におけるその研究の主流をなしていた浄土宗乗、あるいは浄土宗学といった枠組を超えて、より広大な視野に立っての論究によって貫かれている。
目次
第1章 浄土教における生死観
第2章 浄土教における共生思想の展開―とくに椎尾弁匡の立場から
第3章 法然上人の宗教体験の世界―「月かげの歌」の成立の思想的背景
第4章 大乗仏教における超越主義と内在主義―禅と浄土教との対比を通じての一考察
第5章 逆対応とvisio Dei(見仏)
第6章 東西における万有在神論について
第7章 「住」‐場所的主体性‐論考―西田「場所論」をめぐる大乗仏教的基盤における考察
第8章 仏教における「平等」概念について
第9章 「近縁」論成立の背景とその展開―善導教学から弁栄教学へ
第10章 「大円鏡智」論形成の背景と浄土教
第11章 勢至菩薩について
第12章 浄土教的宗教体験と世界観
著者等紹介
河波昌[カワナミアキラ]
1930年京都府に生まれる。1954年九州大学文学部印度哲学科卒業。1960年京都大学大学院文学研究科(博士課程)修了。著書に『大乗仏教思想論攷』(大東出版社、1994)。『東西宗教哲学論攷』(北樹出版、1994)。現在東洋大学名誉教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。