内容説明
本書の第1部では、「超越論的」という言葉の持つフッサール現象学に特有の意味を確認する。フッサールが自明性の自己解明としての超越論的動機から、超越論的意識そのものの奥行きをなす「歴史性」や「世界」へと溯って行った道程をたどり直してみた。第2部では、まず第1章で第1部との連続性を確保した上で、第2章・第3章において、現象学と唯識思想との事象に即した比較研究を試みた。ここでは、「意識の根」に向かう遡行的問いにおいて、両者がいかなる事象に直面しているかが主題となる。第4章は「意識の根としての自然」に関する補論である。第3部・第4部では、以上の第1部から第2部への展開の途上で出会い、その歩みを著者なりに深めるに当たって影響を受けた哲学者の思想ないし個別的諸問題を扱っている。
目次
第1部 現象学からの出発(フッサールとカント―両者における「超越論的」という概念の相違について;フッサール現象学における超越論的歴史について;フッサールにおける論理と生)
第2部 現象学から比較哲学へ(「客観性」の再考―日本文化への学問論に寄せて;唯識思想とフッサール現象学における原的事象への問い―比較研究への覚え書き;唯識三性説と「現れざるものの現象学」;自然の思想史―ホワイトヘッド、フッサールを結ぶ視点)
第3部 日本の思想家論―現象学・比較哲学的視点から(武内義範―廻心の論理の探究;曽我量深―「法蔵菩薩は阿頼耶識なり」という言葉をめぐって;北山淳友―その主著『仏教の形而上学』について)
第4部 現代の課題に向かって(「因果性」概念の諸相―その現代的捉え直しのために;「パーソン論」を問い直す―生命倫理と比較思想の課題;アドルノと「現代」)