出版社内容情報
斉藤倫、待望の長篇書き下ろし。きみは、だれかの夢。きみは、だれかの未来。小学5年生の令は、ある日、トロイガルトという国の死刑囚レインとなった夢をみます。死ぬことを当たり前のように受け入れているその世界で、「わたしは、しなない」という少女シグに出会い、いつしか彼女をたすけたいと思うように・・・。一方現実での令は、合唱コンクールがせまる中、声変わりをからかわれ、歌うことから、自分と向きあうことから、目を背けようとします。しかしクラスメイトにたすけられ、たどりついた自分の新しい声は、ずっとそばにあったレインの声でした。その声に共鳴するかのように、夢と現実が重なりあい、やがて周りにいる人の記憶と世界の扉を開いていく――。子どもたちが未来に光をみつける、希望を描いた物語。
内容説明
なぎ町小学校5年生の平居令と、トロイガルトの独房に暮らすレイン。2人の少年の夢と現実が交錯し重なりあい、やがて未来の扉が開かれていく。
著者等紹介
斉藤倫[サイトウリン]
詩人。『どろぼうのどろぼん』で、第48回日本児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞
花松あゆみ[ハナマツアユミ]
イラストレーター。日本大学芸術学部デザイン学科卒、パレットクラブイラストBコース11期卒。ゴム版画によるイラストレーションで書籍装画、雑誌の挿絵を中心に活躍している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃちゃ
116
月はたしかに夜空にあるはずなのに、“新月”のときその姿は見えない。ラストの含蓄ある一文に、タイトルの意味がじんと心に沁みてきた。幼い頃から心密かに持ち続けてきた夢。その存在をいつの間にか私たちは見失ってしまう…。夢と現実が章段ごとに交錯し、小学5年生の令は双方を行き来する。その中で令は気づいてゆく。自分の夢を殺すことが、大人になることではないと。斉藤倫さんの紡ぐ物語は、まるで哲学の世界へ誘うような不思議な魅力に溢れている。闇夜の向こうに輝く月(夢)があると信じて生きてゆこう。倫さんのメッセージが温かい。2022/10/17
buchipanda3
115
素朴で純粋な問いほど奥深く、複雑な心を産む。声変わりを迎えた小5の令が体験する不思議な物語を読んで、そんなことを思った。自分はどうだったろうか。大人になるってことを意識していただろうか。でも大人とは。自分の本当の気持ちとは。斎藤倫さんの語りは優しいけれど、しっかりと問い掛けてくる。花松さんの絵は落ち着かせて俯瞰の目線を与えてくれる。月の光を探して、一つ目の難関、選ぶことを覚悟する。二つ目の難関、思い込みを無くす。そして自分の声に耳を傾ける。誰もが自分で自分に届けるものがある。それは自分にしかできないこと。2022/10/20
シナモン
99
「ほおっておいても おのずから 死刑になっていくのだ」自分もこんな時を経て大人になったんだろうか。遠く過ぎ去った日々、多感なころの自分を思うと胸の奥がツンと切なくなって涙がにじむようだった。まだ自分にも「死なない」部分はあるはず。それを思い出させてくれたことに感謝。児童書だけど、大人の心にも響く深い一冊だった。2023/12/03
fwhd8325
74
児童向けとは言っていられない内容だと思いました。斎藤さんの作品は以前にも読んでいましたが、パワーアップしていますね。冒険的な容姿や哲学的な要素もあって、実に奥深い。2023/09/14
seacalf
60
斉藤倫さんの文章は読む喜びを思い出させてくれるから、いつも楽しみ。合間に屡々顔を出す倫さん特有の楽しい比喩もすぐに情景が浮かぶぴったりな表現で心地良さを誘う。最初は硬質に思えた花松さんのゴム版画の挿絵も、倫さんの文章を吸ってたちまち暖かみを放ち始める。ちょうど声変わりが始まりつつある小学5年生の令が夢と現実を行き来する物語。太刀打ち出来なそうな大きな問題を前にした時、それでもなお諦めずに取り組めることがあるんだと物語を通して優しく教えてくれる。自己の形成を前にした少年たちの揺れる心を表現するのが上手い。2022/09/07