内容説明
昼の光を夜の魔法に変えて―。夜の言葉で紡がれた、幻影が織りなす異色の自伝的小説。
著者等紹介
カヴァン,アンナ[カヴァン,アンナ] [Kavan,Anna]
1901年、フランス在住の裕福なイギリス人の両親のもとにヘレン・エミリー・ウッズとして生まれる。1920年代から30年代にかけて、最初の結婚の際の姓名であるヘレン・ファーガソン名義で小説を発表する。幼い頃から不安定な精神状態にあり、結婚生活が破綻した頃からヘロインを常用する。精神病院に入院していた頃の体験を元にした作品集『アサイラム・ピース』(40)からアンナ・カヴァンと改名する。終末的な傑作長篇『氷』(67)を発表した翌年の1968年、死去
安野玲[アンノレイ]
1963年生まれ。お茶の水女子大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
61
アンナ・カヴァンの半自叙伝的、実験小説。この「世界」へ彼女が感じただろう主だった感情の短いフレーズで、そのデテールは短編小説として描かれる。だが、読む内に自分の心が次第に掻き乱されていく。それは、今の自分は嘗ての自分を裏切っているのではないかと言う疑念と不誠実さへの恥、心に防波堤を気づく事で完璧だった心の平穏が周囲によってかき乱される事への戸惑いと寂しさ、親が子を勘当できてもその逆は決してできない事への激しい怒りが、蘇り、零れ落ちそうになったから。私にとって、この本は封じ込めていた感情へのリトマス紙だ。2024/05/30
じーにあす
27
どこまでが夢の話でどこまでが空想でどこまでが現実なのか。昼の世界を否定しながらも昼の世界に憧れているのが見て取れる。窓の描写が頻繁に出てくる。館の窓から見える世界を彼女はどう見ていたのか。現実にはどう見えていたのか。一時的に優しく接せられても時間とともに反応が薄らぎそして裏切られる。孤独の中で館にいながら夢と空想の世界に入り浸ってゆく。場面が次から次へと移り変わり物語として成立しているのかも疑わしいが、心を病みヘロインに頼った人間にしか書けない世界なのだと思う。たまにハッとする、身に覚えのある描写がある。2024/07/09
rinakko
11
一篇一篇、息を詰めてしまう。凍てて美しくグロテスクで、どこまでが夢でどこからが異様な幻視なのか…と眩暈しながら。アンナ・カヴァンの作品群に魅了されて久しいので、Bの孤独もAの憂鬱も既に馴染みのようだった(例えばリジャイナがいてガーダがいて)。硬く閉ざした心の強張りも、絡みつく不安の感触も、ひりりと懐かしいままだ。“とはいえ、ときおり虎が羨ましく思えました。(略)そんなときは、深い傷から血が流れるように、気弱な愛が苦しいほどにこの身からあふれるのを感じたものです。”2024/03/04
樽
9
昼の世界の光は、アンナ・カヴァンの眼を焼く。だからといって、夜の世界が彼女を安心させたとも思えない。2024/03/30
おかだん
7
この世界からはじかれた思いを一度でも体験している人なら痛い程伝わる夢の世界。背を向けて耐える中、一度は憧れ、上手くいくのではないかと入っていく明るい場所がやはりまやかしだったのだと気付く学生時代。狂っていく世界と心を追想する混沌としたラスト。カヴァンを読む時、不遜だと思いつつ「貴方は私」とわずかに感じていたことが本作では余りに明白で。時に薬に頼りつつ生き抜いた彼女に敬愛を感じてしまう。 2024/11/29