内容説明
激戦地の生還者が残した手記、「新型爆弾」の鋭い青紫色の光―戦場の真実を探る表題作、遺稿を含む晩年の傑作群。
著者等紹介
野呂邦暢[ノロクニノブ]
1937年、9月20日、長崎市岩川町に生まれる。1945年、諌早市にある母の実家に疎開。8月9日、原爆が長崎市に投下され、原爆の閃光を諌早から目撃する。長崎市立銭座小学校の同級生の多くが被爆により亡くなった。長崎県立諌早高等学校を卒業後、様々な職を経て、19歳で自衛隊に入隊。入隊の年、諌早大水害が発生。翌年の除隊後、諌早に帰郷し、水害で変貌した故郷の町を歩いてまわり、散文や詩をしたためる。1965年、「或る男の故郷」が第二十一回文學界新人賞佳作に入選。芥川賞候補作に「壁の絵」「白桃」「海辺の広い庭」「鳥たちの河口」が挙がったのち、1974年、自衛隊体験を描いた「草のつるぎ」で受賞。1980年、急逝、享年42(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Voodoo Kami
8
「戦争なんか起こりはしなかった。後世の歴史家がそう書いても日本人は信じるのではないかな(中略)戦前の日本と現代の日本と比較して、何が変っています。何も変ってやしません。時代は悪くなる一方です」と登場人物に野呂さんが言わせたのが今から約40年前。戦記執筆を頼まれた主人公が辿る過去を縦軸に小都市の狭い人間関係を横軸に進む物語。最晩年の野呂さんの生活が透けて見えるようで時にいたたまれず、小説上だけでの救いがいっそう切なくもあり、読み通すまで半年以上もかかりました。けれど今まさに読むべき本だったとも思いました。2017/12/20
novutama
3
表題作の「丘の火」は、病に臥したガ島生き残りである実業家の手記を、作者を投影した主人公がリライトする話を軸に進む。同時に地方都市の密な人間模様が展開し、出口の見えない愛人との関係、手記の空白と父の戦死の顛末がミステリーの色を添える。連載小説であるせいか、平板と受け止められがちな著書の作としては、ぐいぐいと先を読ませる力がある。ただし巡らせた伏線をあえて回収しないなど、不親切なところは作者らしい。晩年の作はどれも孤独と苦悩が滲むが、一方で力を抜いて書きたいものが書けるようになった喜びも仄見える気がした。2017/12/06