感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
den55
2
中野鈴子の詩を読むと、プロレタリア詩人という言葉が不要に思えて仕方がない。日本の近代はこのような貧しい人たちが心をじっと見つめながら生きてきたのだと思いおこします。うちも貧しかった。戦前戦後の中野鈴子の詩業がそのまま、私が子供の頃の風景に重なる。 「人々は持つだろう 共感にほほ笑み 善意なるものに満ちていよう 無限なるものに包まれ 彼等の敷き布は白かろう 夜は深く ねむりはあまくまるかろう」こんな美しい詩を書き病に倒れ 「花もわたしを知らない 誰もわたしを知らない」と書き残して1958年に亡くなった。 2025/04/20
翰林菩薩
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中野重治の妹、中野鈴子の全詩集。プロレタリア文学を彷彿とさせる反権力、反戦詩が多く、戦前の世相を反映してか、いささか暗い印象だ。しかしながら農村での生活実感を滲ませた素朴で力強い詩は読みやすく、鋭く心に突き刺さる。また合間には詩人の心優しい思いやりを感じさせる日常が描かれていて、気持ちが和らぐ。今ではすっかり忘れ去られてしまっているようだが、今後も読み継がれ、再評価されてほしい詩人である。2019/08/18