内容説明
「目を閉じること」で愛がはじまる。“かつての愛”から、ことばと沈黙、秘事、異郷を求めてセクシュアリティの蠱惑から自己、外部へと人間の官能と“再生”に迫る“出立”する愛の物語。
著者等紹介
キニャール,パスカル[キニャール,パスカル] [Quignard,Pascal]
1948年、ノルマンディー地方ユール県に生まれる。フランスの作家。大学で哲学を修めたのち、ガリマール社に勤務。父方の家系は代々のオルガン奏者で、音楽にも造詣が深く、故ミッテラン大統領の要請により、ヴェルサイユ・バロックオペラ・フェスティヴァルを主宰(1990‐94)。その後、すべての役職を辞し作家になる。代表作に、『ローマのテラス』(2000、アカデミー・フランセーズ賞受賞)、『さまよえる影』(2002、ゴンクール賞受賞)などがある
小川美登里[オガワミドリ]
1967年、岐阜県に生まれる。カーン大学にて博士号取得。現在、筑波大学人文社会系准教授。フランス現代文学を専門とし、ジェンダー、音楽、絵画、文学などに関心をもつ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
傘緑
40
「読書をしながら夢想することができるような一冊の本を書くことを、私は望んでいる。モンテーニュやルソー、スタンダールやバタイユが試みたことに、私は無条件で感服する。これらの作家たちは、思考と人生、虚構と知識をまるでそれらがたったひとつの身体であるかのように交錯させたのだ」愛の体験からはじまり、その遁走と変奏と変貌を、音楽と読書と思索に絡めて歌い上げた一冊。性愛と死の陥穽にふれることによってキニャールが、自らのゆれ動く内面の様相を描く”思弁的レトリック”のスタイルを確たるものとした経緯を収めた、記念碑的な本。2016/12/01
燃えつきた棒
35
twitterで奈津さんのツイートを見て手に取った。 見事に思弁的なエクリチュールだ。 以前読んだ『めぐり逢う朝』とは、文体が一変している。鮮やかな変態と言うべきだろう。 一見普通の小説のように物語は始まる。 だが、突然、物語は中断され、愛についての思索が断章形式で綴られていく。 その断章の興味深さは、フェルナンド・ペソア『不安の書』やベンヤミン『パサージュ論』の如し。キニャール怖るべし! この作家は、追いかけてみたい。 とりわけ、本書をその第八巻とする「最後の王国」のシリーズは、全て読んでみたい。/2025/05/05
erierif
16
秘密の恋人との日々から、どんどん古今東西の古典や文学、詩、音楽、哲学、宗教、ラテン語と教養豊かな話になっていく。流れるように美しい詩のような文章。そしてそこから飛躍的に考察が続き、わずか数行でもゆっくりと時間をかけて咀嚼するように読んだ。出生時のトラウマや胎児の記憶から死者への愛。別離。あらゆる愛の全てを網羅し取り上げ徹底的に吟味する。午前11時の光を求めて始まった作者渾身の自らの物語は、不可視の手により触れ、捕らえ、何もかも通り抜け昇華されていく。読んでも読んでも読み尽くせない広がりのある本であった。2014/03/01
antoinette
13
やっと書き抜きが終わったので感想をば。音楽の話がもうちょっと欲しかった、というのが正直なところ。あまりにも晦渋で、おそらく人生で読書スピード最遅記録を達成してしまった。「解説」を先に読んでもいいと思う。ハードカバー約500頁で愛とセクシュアリティと結婚の違いを叩き込まれ、キニャールの本ではいつもそうだがちょっと大人の階段を昇った気分。しかし間を置いてみるとどうも引っかかるところが多く、特に「われわれ」の使い方でしばしば面喰った。「われわれ」というので女である自分も「ふむふむ」と読み進めていくと、(続く2016/12/18
uni
13
キニャールの本を読む度に自分の内部の世界観が大きく揺れ変わってゆく。それほど私にとって大きな影響力をもつ作家。難解で格式高い教養が散在する文章だけれどそんな彼の文章から得られるものの大きさに脳味噌がいちいち喜びの声をあげる始末。心臓の鼓動のリズムと呼吸のリズムは決してシンクロしない。愛について「相手の体に認知よりも沈黙を少しずつ要求するようになった。そこに安らぎはなかった。」この一文だけで何かが満たされ救われた。読書とは社会と時間の死角で生きること。私の欲望は君の欲望ではない。素晴らしい作品。2014/03/10