内容説明
「ジョゼフ・コンラッド、あなたはぼくを盗んだ、あなたはぼくの人生を排除した…」コンラッドが描き出した架空の国コスタグアナ、しかしそれは、歪曲されたコロンビアの歴史だった…『ノストローモ』創作の陰に隠蔽されたコロンビア人の影を浮かび上がらせ、語られなかった物語、語られなかった歴史を南米側から暴きだす、現代ラテンアメリカ文学の傑作。
著者等紹介
バスケス,フアン・ガブリエル[バスケス,フアンガブリエル] [V´asquez,Juan Gabriel]
1973年、コロンビアに生まれる。ロサリオ大学法学部卒業後、ソルボンヌ大学へ進学。ラテンアメリカ文学で博士号を取得。ヴィクトル・ユゴーやE・M・フォースターの翻訳、さらにジョゼフ・コンラッドの伝記などを執筆。『物が落ちる音』でアルファグアラ小説賞などいくつかの文学賞を受賞
久野量一[クノリョウイチ]
1967年、東京生まれ。東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程単位取得退学。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授。専攻はラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
95
J・G・バスケス初読み。その引き付ける語りに翻弄され、気が付けば語りの世界に溺れていた。冒頭、語り手は自分からある大事なものを盗んだとコンラッド(ポーランド出身の作家)の名を挙げる。それが何かを示すために語り手はコロンビアからパナマが独立した経緯を直接、肌で対峙した自分と父親の姿を叙情的に語る、俯瞰せず目を凝らして語る。コロンビアは独立国だったが実際には宗主国たちの思惑次第の存在。政情の不安定さの中で彼が失ったもの、手離したもの、中でも象の腹のなかのラストや内戦の偶発的な傷痕に言葉にならない思いが残った。2022/04/28
rinakko
19
すこぶる面白く、ぐんぐん読めた。コロンビア史を題材とする点で『物が落ちる音』と共通しているが、曰く“見えない糸で結び付けられた” ジョゼフ・コンラッドと主人公の関係(2人の人生には奇妙に呼応する法則があった…)を小出しに仄めかす展開に、まんまと乗せられる。言葉の端々から滲み出す罪悪感と喪失の悲哀、そしてコンラッドへ向けた憤りの理由とは…。訳者あとがきによれば、『百年の孤独』に影響を受けつつ距離を置く…という姿勢の作家。きっちりコロンビア史を語りながら、主人公の行く末とその過酷な宿命からも気を逸らさせない。2016/05/17
funuu
15
南米にまたひとつの共和国が誕生した。一つ増えようが、一つ減ろうが、どうだというのだ?アメリカ帝国のパナマ運河領有秘史。日本もアメリカ帝国の「不沈空母」にすぎないともいえるかも。“百年の孤独”と違うラテンアメリカ文学が作者の狙いだが、“百年の孤独”風になっている。2016/03/21
みみみんみみすてぃ
11
とにかくめちゃくちゃ面白かった。何か感想にまとめられる言葉が見つかったらちゃんと感想書きます!! セコいと思っちゃうくらい書き方が自由。2016/06/19
しゅん
9
聴く小説だ。饒舌な語り手が撒き散らす言葉はとにかく音楽で、呪術的なリズムとグルーヴを宿している。コンラッドは長編『ノストローモ』でコロンビアをモデルにした架空の国「コスタグアナ」を描いた。本書はこのポーランド生まれの英国作家が隠したある秘密を、コロンビア人の男が破天荒な口調で暴いていく一人称小説。饒舌は怒り・悲しみ・罪悪感を隠すためのカモフラージュ、やがてその感情の怒濤が露わになる。コロンビア史を彩る膨大な固有名詞が登場するが、知識がなくても十二分に楽しめる。調べていけばもっと楽しいだろう。2016/07/06