内容説明
編集者、批評家、活動家、そして詩人…数多の顔をもつコスモポリタンにしてエジプト・シュルレアリスム運動の主導者、ジョルジュ・エナン。西欧諸国を渡り歩いた幼年時代、カイロの政治青年としての活動、ブルトンとの共闘と離別、そして祖国エジプトからの亡命。詩篇を読解しながら波瀾万丈の生涯と思想の足跡をたどる。
目次
序章 シュルレアリスムと沈黙
第1章 シュルレアリスム以前
第2章 エナンのシュルレアリスム
第3章 エジプト・シュルレアリスム
第4章 国際的シュルレアリスムと周縁的シュルレアリスム
第5章 シュルレアリスム以後
終章 沈黙と現代詩
著者等紹介
中田健太郎[ナカタケンタロウ]
1979年、東京都に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程満期退学。専攻、フランス文学。現在、日本大学非常勤講師、日本学術振興会特別研究員(PD)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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梟をめぐる読書
11
「周縁」は「異端」ではない。「異端」は歴史の〝正統〟に対するアンチテーゼたり得るが、「周縁」は〝主流〟に対する〝傍流〟に留まるのみである。「異端」は人々の心に鮮烈に記憶されるが、「周縁」はただ忘却の渦に呑まれていくばかりである。そんなシュルレアリスムという「異端」の運動の更なる「周縁」に属する芸術家ばかりを扱ってきたこのシリーズも、本書をもって遂に完結する。ラストを飾るのはジョルジュ・エナン。エジプト・シュルレアリスムという日本人には耳遠い活動に従事し、晩年には沈黙を守り通した「周縁」的人物の一人である。2013/12/21
dilettante_k
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「周縁的」シュルレアリストをテーマに刊行が続いたシリーズも、エジプトの地にあったジョルジュ・エナンをもって完結した。本書の、丹念な調査にもとづく伝記的部分や彫琢した訳詩もひとまず措こう。エナンと著者を介して、ここでシュルレアリスムは「砂漠」のイメージを得た。無時間的で、中心と周縁は不明瞭だ。量も形体も自在だが、曖昧な、しかし必ずどこかと境界を備えている。エナンの場合、砂漠の内外から、沈黙の言葉=詩でもって、この境界に働きかける。砂まみれでかろうじて線路に手を掛けるように、むこうの誰かに向けた賭けとして。2014/01/06