内容説明
裕福な医者ミノレと、その養女ユルシュールを軸に展開する遺産相続の悲喜劇。保護者を亡くした娘は、その命さえ脅かされて…「人間喜劇」らしい活気溢れる人間描写の中に埋め込まれた神秘的なメスメリズムが、ユルシュールの運命の変転の鍵を握る。
著者等紹介
加藤尚宏[カトウナオヒロ]
1935年、東京に生まれる。早稲田大学文学部仏文科卒業、同大学大学院博士課程修了。早稲田大学大学院名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
125
最初はなぜか駅長の考えと自分の視点が重なり、ユルシュールが好きになれなかった。自分だけなら正直でいたのに、子供や配偶者が出来ると損得勘定が卑しくなる人は確かにいる。財産を狙っていた者の中にも、元は善悪の判断がきちんと出来ていた人は多いはずだ。ユルシュールは、その点、いつも清らか。しかし、欲がないということは、時にやられっぱなしになる。バルザック作品では、人の良さから割に合わない死に方をするものも多いが、ここではちゃんと帳尻を合わせる。それが何によってなされるか…、ここにバルザックの信仰心がみえる気がする。2018/03/27
NAO
54
遺産にまつわるごたごたはあまりにも人間臭くどろどろとしていて見苦しいが、バルザックが傾倒していたスウェーデンボルグやメスメリズムなどの神秘主義がふんだんに盛り込まれ、亡くなったミノレ博士がユルシュールの夢に出てくるようになってからは、途端に、話がオカルトっぽくなってくる。だが、この話は、なんといってもユルシュールの誠実さ、純粋さが印象的で、その性格ゆえに、バルザックの『人間喜劇』中、珍しい相思相愛のハッピーエンドとなっている。2017/07/20