内容説明
“わたしは今すべてを忘れようとする。わたしの中心に、わたしの代数学、わたしの鍵、わたしの鏡に達するのだ。わたしは誰か、今それをしるだろう。”忘却、死、非在。散文と詩が混在する、70歳に達したボルヘスの5番目の詩集。
目次
ヨハネによる福音書 一章十四節
ヘラクレイトス
ケンブリッジ
エルサ
ニューイングランド 一九六七年
ジェームズ・ジョイス
不滅の贈り物
迷宮(エル・ラベリント)
迷宮(ラベリント)
一九二八年五月二十日
リカルド・グイラルデス〔ほか〕
著者等紹介
ボルヘス,ホルヘ・ルイス[ボルヘス,ホルヘルイス][Borges,Jorge Luis]
1899年、ブエノスアイレスに生れ、1986年、ジュネーヴに没した。二十世紀文学を代表する詩人、批評家、短編小説家
斎藤幸男[サイトウユキオ]
1939年、石巻市に生れる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たーぼー
54
幻想的図書館の番人が魅せる迷宮は幾つもの階路に分岐され、読者は幻惑される…。これがボルヘスの真骨頂と思うが、本書に収められた散文と詩は、やや趣が異なる。齢70のボルヘスが静かに、その死生観を読者に語りかける。そこに、彼の謙虚さ、優しさといった生身の姿を垣間見ることができ、何故か安堵した気持ちになれた。しかし、そこはボルヘス。手の内を明瞭に提示するというより、己の露呈の中にトラップを巧みに仕組んだうえで告白するのが、彼ならではだな、と感じた。『書物の番人』『闇を讃えて』はこれが顕著に現れ、味わい深さ極まる。2016/12/29
白義
18
本人が他の詩集より良くも悪くもないと言うとおり、徹底したボルヘスの一貫性、共通したテーマが変わらず繰り返される第五詩集。しかし本人も言うように老年に差し掛かり死を意識した詩篇、言語を越えた沈黙の世界、闇の世界への思索が多い。なかでも「民族学者」が文化人類学の困難を本質的なレベルで描いた異色作ながらそうした非言語の世界への礼賛というタイトルの傾向が何より現れている。盲目による暗闇と、押し寄せる死の気配、回想、晩年のボルヘスの生の部分に触れた手触りがある。表題作はそうしたテーマを集約していてこれもまた実にいい2020/12/25
みみみんみみすてぃ
14
素晴らしかった。雰囲気。言葉から闇や大地や光が溢れてくるようだ。一気に詩への興味が再熱。 〈年老いたわたしには企てはすべて 夜と境を接する冒険なのだ。〉 (「ある読者」より)2016/12/03
ぞしま
12
1967年から1969年にかけて、ボルヘスの5冊目の詩集らしい。ボルヘスも人間なのだな、というのが素直な感想。通底するテーマでは近しいものが流れているのかもしれないが、これがあの『伝奇集』と同じ作家だとはにわかに思えて来ない。平易で、控え目で、素朴とすら言えるボルヘスの私的側面を垣間見たような気持ちになった。思うに、ボルヘスにとっての詩とは、自身の記憶や友人への思いや愛惜、その他諸々の思いを端的に直截的にあぶり出す業だったのではなかろうか。詩とは……感情の吐露なのだ、多分。作家への信頼が増す一冊となった。2017/02/28
茶器
5
ボルヘスが当時の文化人同様、反ナチス及びイギリスを雄々しく鼓舞する一編「ある幻影に 一九四〇年」が意外。作者不在の、捉え処がない不安のイメージから、少しだけボルヘスの熱に触れた気のする作品集でした。2016/06/04