内容説明
「レーニン最大のライヴァル」と呼ばれながら、あるいはそれゆえに、レーニンとの関係からしか語られなかった思想家アレクサンドル・ボグダーノフの思想と、その影響下におこなわれたボリシェヴィキの「実験」(建神主義、プロレタリア芸術、テイラー・システム)、そうした思想と実験の目標たる、人間の身体レベルでのつくりかえ=新しい人間の創造の理念を考察し、その今日的意味を問う。これまで政治・経済の政策面でしか研究されてこなかったボリシェヴィズムを20世紀初頭のヨーロッパ思想のなかに位置づける、ロシア思想史の新鋭による世界的にも斬新な論考。
目次
第1章 ボリシェヴィズムの誕生と20世紀初頭の思想状況
第2章 人間と宇宙の進化論―ボグダーノフの協働の哲学
第3章 集団主義的人間と社会意識の発展
第4章 建神主義―プロレタリアートの宗教
第5章 プロレタリア芸術の理論をめぐって
第6章 プロレタリアートの詩と演劇
第7章 テイラー・システムと人間機械
第8章 ボリシェヴィズムとロシア・コスミズム
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
傘緑
40
サーヴィス『トロツキー』の訳者解説で山形浩生が紹介していた本。「ボルシェヴィズムをナロードニキに代表されるロシアの革命思想の系譜でとらえるだけでは不十分…同時期のロシアの宗教思想家や神秘主義者、象徴主義者…ロシア・コスミズムとの関連さえもうかがわせる」往時はそのとんでもない思想と壮大な宇宙観(個人的にはフーリエを思わせる)によって、レーニン以上の影響力を誇ったボグダーノフを中心に語られる、レーニンやスターリンといった”今では主流される者”との抗争に敗れ淘汰された、敗者たちの、挫折者たちのボルシェヴィズム。2017/07/10
Toska
10
政治や経済ではなく、思想・哲学といった側面からボリシェヴィキ運動を振り返る。一般には「レーニンの論敵」としか扱われないことの多いボグダーノフが主人公格。冒頭、マッハ哲学からの影響を論じる辺りは難解で、自分程度の理解力では追いつかない。だがその後で格段に面白くなってくる。個人主義の克服と集団主義への志向、人類それ自体の進化。機械とそれを使いこなすプロレタリアートの甘美なハーモニー。「新しい人間」は精神のみならず肉体的にも革新を遂げているとされ、ボグダーノフ自身もそれに向けた一種の人体実験で命を落とした。2023/10/25
kinka
5
ロシア・コスミズム関連の書籍を図書館で探し中に、読みたい本の隣にあったやつ。これはボリシェヴィキの思想的背景とその実践の例を扱った本だが、明らかにコスミズムの影響があるなあ。著者は関連については結論を保留してるけど。「共働の哲学」は、個人主義を近代の限界として、集団で経験や思考を共有することで人類は進化の新しい段階に入ると主張するが、これものすごくフョードロフ(コスミズムの始祖)っぽい。建神論っていう謂わば新しい宗教や、その熱狂ぶりも。死者の復活なんてものも本気で議論されてたみたいだし。いやおそロシア…2015/06/11
黒い森会長
3
レーニンに批判されたボグダーノフの思想を中心に、革命初期の芸術論などを検討したもの。いわゆる「史的唯物論」ではない、もう一つのボルシェビキ思想。とくに「新しい人間」観はSFというか幻想的である。19世紀末から20世紀初めにかけては、ウェルズの「世界史概観」やステーブルドンの「スターメイカー」などの宇宙史的エッセイやSFが書かれた時期。ロシアもまたその流れの中にあったということ。2017/03/31
工藤 杳
2
ああ、ああ、本当に面白い・・・。基本的にはめちゃくちゃポジティヴで、人間は進化次第でまだやれるという発想があるのでとても元気が出る(それが良いが悪いかは別として)。「エントロピーにノーと言う」こと、「時間同盟」とかいうSFタームなど、やばい、面白すぎる (*ルナチャルスキーのтоска:現実と理想のギャップを埋めるものとしての)2016/10/09