内容説明
二十世紀のロシアの歴史を静かに通り抜けたフランスの女―それがぼくの祖母だった。ぼくを包み込むステップの夕暮れ。時空を超えて甦えるベル・エポックのフランス―。フランスを接ぎ木されたロシアの少年の、祖母の人生への追憶のなかに響きわたる二十世紀への挽歌。ゴンクール賞、メディシス賞、高校生のゴンクール賞、3賞同時受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Porco
17
ロシア出身でフランスに移住したフランス語作家による小説。なかなか小説家デビューできなかったので、ロシアの小説の翻訳者のフリをして出版社に売りこんだというエピソードが面白い。2017/04/06
umeko
4
激動の時代の中、落とし穴に落ちたような静謐な時間を味わいました。美しい祖母の姿を、少年を通じて感じることができ、二人の姿がどこか重なり、互いに響きあっているようにも感じます。美しい物語でした。2012/04/04
中玉ケビン砂糖
1
「まだ子どもの頃、ぼくはあのなんとも風変わりな笑みが、どんな女にとっても、どこか不思議なところのあるささやかな勝利を意味しているのに気づいていた。そう、裏切られた希望や、男たちの不作法や、この世に美しくて嘘のないものが少なすぎることに対する、束の間の復讐だ。」ひとりの少年にとっての憧れ。フランス国籍であること/ロシア国籍であること、その境目にあるなんとも名状のしがたい環境と感覚。実はなにものでもないこと。名前のない幸福。虐殺の追憶。美しいことばでとらえられた、繊細な成長の物語がすべてを認めている。2014/07/10
rinakko
1
素晴らしかった。少年の目に映るもの全て、そして憧れの国の想像の中の眺め。それらを語る言葉たちが、あんまり真っ直ぐ胸に飛び込んでくるので、その鮮やかさに捕まって幾度となく立ち止まった。瑞々しさに溢れた少年の声と、慕わしさと懐かしさを伝えてくる追想の声とが、寄せては返す波のように優しく交互に響いて、耳底から離れない。祖母と過ごした幾つもの夏の夕べ。匂い立つそよ風が行き渡るロシアの草原と、お話の中のフランス=アトランティス。いつの間にか二重になっていた人生。かつての少年がたどり着くべくしてたどり着いた場所とは…2011/11/22