内容説明
自伝を定義することは可能なのか?自伝と他のディスクールを区別するものは一体、何か?この問いに答えるべく、本書において著者は、先ず、自伝テクスト読解の際の、テクストと読者の契約様式としての「自伝契約」という概念を探究の基軸に据え、自伝ジャンルへの抱括的な理論的考察を推進する。一方では、ルソー『告白』第一巻の複合的構造の分析、ジッド『一粒の麦もし死なずば』のもつ言表行為のレベルでの曖昧さ、サルトル『言葉』の「意味」が支配する物語順序、レーリスのエクリチュールにおける詩と自伝の漸進的統合、などの自伝を巡る諸問題を、テクストに密着しつつ、解き明かしてみせる。ジャンルとしての自伝に記号論的・物語論的方向から肉迫する、自伝研究の記念碑的大著。
目次
1 契約
2 読解(子供への罰―ルソーのある告白の読解;『告白』第一巻;ジッドと自伝空間;サルトルの『言葉』における物語順序;ミシェル・レーリス―自伝と詩;『語彙集』から『ビフュール』へ―テクストの構成;エサウの名による前奏曲とフーガ)
3 歴史(自伝と文学史)
感想・レビュー
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ラウリスタ~
10
冒頭と最後に、そもそも自伝とはどういうものなのかということが語られ、個別研究として、ルソー、サルトル、ジッド、レリスの自伝が分析される。ここ分析される自伝は、ほぼ作家の自伝とイコールなのだが、つまり自伝的小説と自伝との違いが問題になる。真実は虚構のなかでしか語れない、とはいえそれだけでは理解してもらえないから糊塗された自伝も残すジッドのやり方とか特徴的。自伝という「新しいジャンル」をどう区分けし、そこになにを読むべきかを考える。それが真実かということよりも、「今」の作家が、過去の自画像をどう規定したいか。2015/04/18