出版社内容情報
ビジネスマン時代、「お前はクビだ!」の決め台詞で知られたトランプ氏は、大統領就任後もその姿勢を変えず、自らと対立する高官を次々と解任してきた。その矛先は米陸軍が設置した「レッドチーミング大学校」にも向き、予算削減によって閉鎖に追い込んでいる。この背景には、彼自身が批判的検証を行う「レッドチーミング」という意思決定メカニズムを嫌悪している事情がある。しかし、現場の米軍指導者たちは、権威者にとって耳の痛い異論こそが、戦闘での勝利に不可欠であることを熟知している。
歴史はその教訓を如実に物語る。かつての日本海軍は、精強な戦力を持ちながらも、戦略策定段階でレッドチーミング的な視点を排除したため、独善的な計画を修正できず壊滅的な敗北を喫した。対する米海軍も、真珠湾攻撃前には異論を無視し痛手を負ったが、その後は教訓を活かし、組織的に異論を取り入れることで日本海軍を打ち破ったのである。実戦を重ねた米軍は、この手法を意思決定プロセスに深く組み込んでおり、政権の方針に関わらず現場レベルでは維持され続けている。
現在、世界に目を向ければ、不安定化する国際情勢を受け、英軍やNATOはレッドチーミングを強化している。ビジネス界でも、ITやAIによる競争激化に伴い、企業の生死を分ける意思決定の精度を高めるため、軍事以上のスピードで導入が進んでいる。対照的に、日本の組織文化はいまだに権威への忖度や根回しが優先され、異質な視点を排斥しがちである。これが国際社会の変化に対応できず、政治・経済・軍事のあらゆる面で「ガラパゴス化」と停滞を招いている主因と言わざるを得ない。
組織が失敗する最大の要因は、情報不足ではなく「思い込み」である。レッドチーミングとは、カトリック教会の「悪魔の代弁者」にも通じる、組織的に異論を採り入れる技法だ。競争相手(敵)の視点を再現し、自社の弱点や見落としを可視化することで、認知バイアスの罠を回避できる。
この閉塞状況を打破するためには、日本のあらゆる組織と個人の意思決定に、このメカニズムを組み込む必要がある。忖度を捨て、「敵の目」で自らの前提を疑い、最善の意思決定を導く力を養うこと。賢い指導者として逆説を味方につけることこそが、不確実な時代を生き抜く道である。
【目次】
はじめに 1
第1章 ウォーゲームの始まり 11
戦う前に欠かせないシミュレーション 11
ウォーゲームの源流「チャトランガ」12
ウォーゲームの普及 14
広義のウォーゲームと狭義のウォーゲーム 18
ウォーゲームの目的──「敵を知り、己を知る」19
「敵を知り、己を知る」を妨げる認知バイアス 22
認知バイアスを除去する意思決定法 23
「悪魔の代弁者」──レッドチーミングの基本原理 24
第2章 レッドチーミングの歴史的教訓 27
歴史に見る「敵を知り、己を知る」の実例 27
レッドチーミングの教科書『保元物語』28
日本海海戦──「敵を見くびる」というバイアス 33
真珠湾奇襲──通説や強い意見に拘泥するというバイアス 41
ミッドウェー海戦──権威というバイアスと意思決定者による不正行為 46
ミレニアム・チャレンジ2002──権威というバイアスと不正行為 53
第3章 各国軍採用のレッドチーミング 59
レッドチーミングの基本的原理 59
1、アメリカ国防総省 60
『国防総省におけるレッドチーミングの役割と現状』63
2、アメリカ海軍 67
『海軍戦闘部隊司令官のためのレッドチーム・ハンドブック』69
3、アメリカ陸軍 75
『応用批判的思考ハンドブック(第7版)』77
『レッドチーム・ハンドブック(第9版)』80
4、イギリス軍 82
『レッドチーミング・ガイド──開発・概念・教義センター・ガイドライン』84
『レッドチーミング・ガイドブック』90
『レッドチーミング・ハンドブック』96
5、北大西洋条約機構(NATO)100
『NATO代替案分析ハンドブック第2版』103
6、オーストラリア国防軍 106
『オーストラリア国防軍によって見過ごされているレッドチーミングと代替案分析』108
7、カナダ軍 111
『代替案分析とは何か?』112
第4章 台湾有事シミュレーション 115
──実践的レッドチーミング
◆ シミュレーション「台湾Xデイ」116
◆ 台湾有事審議会の編成 119
◆ レッドチームの編成 122
◆「ホームチーム」による伝統的戦略の提示 124
◆ ホームチームによる新戦略の説明 127
◆ レッドチームによる疑義と反論 134
◆「両チーム」次の課題 145
第5章 レッドチーミングの手順 147
レッドチームを編成する 147
「対立的視点」を提供する 149
「敵の考え方」を再現する 150
「敵の思考を形成する要素」を把握する 151
レッドチームの役割──対立的視点を持ち込む 155
レッド
内容説明
想定外を言い訳にしない。思い込み・固定観念に囚われない。異論を組織に組み込む。経営判断を狂わせるのは外敵ではない。あなた自身のバイアスだ。最悪を想定し、最善を選ぶ力―それがレッドチーミング!
目次
第1章 ウォーゲームの始まり
第2章 レッドチーミングの歴史的教訓
第3章 各国軍採用のレッドチーミング
第4章 台湾有事シミュレーション―実践的レッドチーミング
第5章 レッドチーミングの手順
第6章 日本こそレッドチーミングを導入せよ
付録1 認知バイアス
付録2 OODA(ウーダ)ループ
著者等紹介
北村淳[キタムラジュン]
東京都生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務める。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は国家論、戦略地政学。米国シンクタンクにおいて米海軍、米海兵隊などへのテクニカルアドバイザーを務める。“戦う軍隊”に入り込んでフィールドリサーチを実施する経験を持つ数少ない日本人の社会科学者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。



