内容説明
現代ほどあらゆるレベルで主体と他者との関係が問題にされ、他者への豊かな想像力、相互対話に基づく新しい関係性の創造が求められている時代はない。多文化・多民族社会アメリカにおける文学的営みは、他者への意識を様々な形で織り込み、問題化するテクストを生み出してきた。本書は、それらのテクストのいくつかを「他者」「眼差し」「語り」をキー・ワードに再検証し、人種・民族、ジェンダー、階級、セクシュアリティ、環境などが複雑に交差する問題系を考察する。これまでの研究・批評の蓄積を踏まえたテクストの最新の読みを、共有するキー・ワードを使ってわかりやすく提示し、それらを時代の流れに沿って配置している。読者は、歴史的なパースペクティヴのうちにそれぞれの問題が響き合い、変容するさまを読み取ることができるであろう。
目次
第1章 沈黙から対話へ―南部文学における眼差しと語りに関する一考察
第2章 アメリカ文学に見られる自然への眼差しについてのスケッチ
第3章 「愛」という名の罠―ホーソーンの『七破風の屋敷』について
第4章 見える愛国者/見えない水夫/見られる他者―『レッドバーン』と『ホワイトジャケット』における黒人表象
第5章 都市のアポカリプス―ポピュリズム、陰謀、ディストピア
第6章 都市という暗黒大陸―『南回帰線』における移民・貧民あるいは「不適格者」達
第7章 眼差しとパフォーマンス―ネラ・ラーセン作品における流動するアイデンティティ
第8章 自足的なお伽の世界の魅力と限界―ユードラ・ウェルティの『デルタの結婚式』論
第9章 他者の記憶を語ること―ヒサエ・ヤマモトの「フォンタナの火事」にみる人種差別と語りのポリティクス
著者等紹介
吉田迪子[ヨシダミチコ]
青山学院大学教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。