出版社内容情報
《内容》 近年,透析医療におけるリスクマネジメントの重要な課題として,院内感染対策が挙げられています.私どもは,厚生労働省の,厚生労働科学研究費補助金医薬安全総合研究事業の一環として,日本透析医会,日本透析医学会,日本臨床工学技士会,日本腎不全看護学会の協力を得て,「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」(以下,「感染マニュアル」)を作成し,全国の透析医会会員,透析医学会施設会員に配布しました.
これは,多くの透析施設にて利用され,感染症対策の必要性を啓発するのに大きな役割を果たしております.また,医療監査を始めとする,行政の目標値としても引用され,透析施設の感染対策策定の教本的な役割を果たしてきました.また,これらの対策にも関わらず,透析施設における肝炎ウイルス感染例はたびたび新聞報道をにぎわせ,透析医学会統計調査の成績からも依然として肝炎ウイルスの院内感染が持続しているものと伺えます.そこで,各透析施設では感染対策を継続し,常にその見直しをはかる必要があります.予防のみに限定せず,肝炎ウイルス感染患者の治療や肝癌防止のための対策などを始めとし,各種感染症に対する治療法についても知識を深めていくことも重要な点となります.
以上のような観点より,透析施設における肝炎ウイルスを始めとする各種感染症予防に対する具体的な知識と対応策について,公的な性格をもつ「感染マニュアル」には書けなかった知識を補完し,さらに深めるために本書を企画いたしました.また,リスクマネジメントは患者を守るだけでなく,スタッフをも感染から守るという意味合いがあります.同時に感染対策にかかるコストベネフィットについても考慮しました.
本書は,各透析施設の院長,透析室担当医師,主任クラスの看護師および臨床工学技士,感染コントロールナースなど,感染管理において管理的かつ責任ある立場の透析スタッフを読者対象として,この領域に経験の豊富なそれぞれの職種の専門家に執筆していただきました.上記の「感染マニュアル」では,「痒いところに手が届かなかった」点を補完し,各施設における感染対策を常に見直し推進するための強い味方になる書籍となったものと自負しています.
《目次》
はじめに:透析医療における感染症とは
第1章 感染予防の基本
1.透析患者はなぜ感染に弱いのか
2.基本的感染防止対策
3.院内感染に関する微生物の知識
4.推奨される正しい消毒・洗浄
5.感染防止のための血液透析操作
1)血液透析の準備
2)血液透析の開始から終了まで
3)終了後の物品の処理・廃棄など
4)透析装置・室の洗浄と消毒
6.感染防止のための院内体制
7.感染防止上の透析室設計と設備
8.透析スタッフの感染予防対策
9.感染予防のための患者教育
第2章 感染予防各論
1.ウイルス肝炎の院内感染防止のための個別予防策・治療
1)院内感染予防のための個別予防策
2)肝炎ウイルス感染発生時のウイルス学的・疫学的調査
3)肝炎ウイルス感染者の治療
2.肝炎ウイルスを除く感染症の個別予防策と治療
1)HIVの個別予防策
2)MRSAの個別予防策
3)インフルエンザの個別予防策と治療
4)肺炎球菌感染症の個別予防策と治療
5)とびひ・水虫・その他皮膚接触感染症の個別予防策と治療
3.CAPD関連感染症
4.カテーテル関連感染症
第3章 院内感染と透析医療
1.感染事故時の緊急対応,事故後の長期的対応
2.医療事故としての院内感染
3.感染防止に関するコスト・医療経済