内容説明
ノーベル賞受賞のスピーチで「日本人と長崎」を意識していると語る。本書は長崎出身の著者が長崎との接点に迫った素顔のカズオ・イシグロ像。
目次
第1章 生誕の地―長崎市新中川町というカズオ・イシグロの原点(新中川町界隈の風景;エデン的記憶 ほか)
第2章 家族のこと―祖父と両親の個性的な生き方(上海で仕事をした祖父;租界での思い出 ほか)
第3章 カズオ少年の長崎―そしてイギリスへ(記憶のかたち;カズオ少年の思い出 ほか)
第4章 小説のなかの長崎と日本(遠い山なみの光;浮世の画家)
第5章 “遠い記憶”の残響(日の名残り;充たされざる者 ほか)
著者等紹介
平井杏子[ヒライキョウコ]
長崎市生まれ。エッセイスト。昭和女子大学名誉教授。専攻英文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
12
長崎・新中川町は川沿いの坂の上にあった。カズオ・イシグロが石黒一雄として5歳まで過ごした町を旅してきた。丁度「遠い山なみの光」を読んでいたところで、多くの周辺の地名がこの本に出てくる。薄れゆく日本の記憶を書き留めることで小説の世界を形作っていたのだろう。彼の祖父から両親の人生、そしてノーベル賞を獲るまでの一連の作品の解説とともにいかに彼にとって日本とりわけ長崎の記憶が、また日本文化が重要であるか著者の目を通して十全に語られている。今後漫画とのコラボを構想中らしい。どんな作品が生み出されるか楽しみである。2018/07/28
アルクシ・ガイ
2
ノーベル文学賞受賞以前に名前を知っていて、しかも作品を読み込んでいたのはカズオ・イシグロだけ。ファンです。彼の心のルーツが日本にあると聞くと微妙に虚栄心がくすぐられるけど、イシグロ自身はそんな「エキゾチック」な面だけを評価されたくはなかっただろう。話は飛ぶが私は長崎の平和祈念像が大嫌いです。筋肉ムキムキの、明らかな白人ヅラ。おまけに、右手で原爆を、左手で平和を示しているってことは、つまるところテーマは「強大な西欧国家による、原爆を利用した平定」ではないか。敗戦国って惨めだな。2018/12/29
アーク
1
カズオ・イシグロ氏って、生後すぐに長崎からイギリスに移住したのかと思っていたら、少年時代を長崎で過ごしていたんだな。長崎は高校時代の修学旅行で行ったけれど、日本の田舎ならではの懐かしい雰囲気の中に異国情緒が漂う、美しい街だった。そこから同氏の寂寥感を漂わせる一連の作品が生み出されたのは分かる気がするな。同氏に関連する長崎の風景と、代表作の解説が収められていて、その背景をよりよく知ることが出来た一冊。2018/05/12
Poopscoops
0
イシグロ文学の理解を深めたかったから読んだ。おかげで『A Pale View of Hills』をより深く味わえたかと思う。「記憶」・「ノスタルジー」・「信頼できない語り手」を意識した上で改めて『Klara and the Sun』を読みたい。カズオイシグロさんがこれまでどう考えて生きてきたかを見て、ここまで自分の人生や社会に対して深く考えられる人がいるんだと、自分もこんなカッコいい存在になりたいと思った。2022/04/30