出版社内容情報
『図書新聞』(No.2901) 2009.1.17付
明治末期に日本を訪れた一人のタタール人のムスリム(イスラーム教徒)がいた。名前をアブデュルレシト・イブラヒム(1857~1944)という。その後、再度訪日し、日本で最後を送った。ロシアで生まれ、オスマン帝国(現・トルコ)でロシアにおけるムスリム解放へ向けての汎イスラーム主義活動を積極的に行い、日本ではアジア主義者たちとの交流を通して、イスラームの普及に力を尽くしたイブラヒムの軌跡を追った本書は、わが国の近現代史の意外な一側面を照らし出している。著者は、中央アジア近現代史の研究者であり、その集積した認識に立って、ロシア(西シベリア)を起点にして東アジア、日本、インド、西アジア、トルコへと辿ったイブラヒムの八十七年の生涯を丹念に詳述している。..... (評者:黒川 類)
『史学雑誌』第118編第9号 「新刊紹介」より
本書は並外れた熱意と行動力で,約100年前のロシア,イスラーム世界,日本を駆け巡った一人のムスリムの
軌跡を辿ることによって,ロシア,オスマン両帝国の崩壊に直面した時代のムスリム知識人の思想状況を映し出している。・・・略・・・日本のアジア主義とイブラヒムの汎イスラーム主義との接近を通して,20世紀前半の世界における思想の潮流と現実政治との交流を鮮やかに描き出している。また,イブラヒムと日本との相関は戦前日本におけるイスラーム研究の隆盛とも連動していた。・・・略・・・本書が示したイブラヒムの生涯からは近代イスラーム思想史,ロシア史,日本近現代史という枠を超えた鳥瞰的な視野の広がりが得られる。 (評者:植田 暁)
『歴史学研究』No.861 「史料・文献紹介」より(2009年12月) (評者:下田 誠)
2007年より刊行が始まった『世界史の鏡』シリーズの一冊として刊行された本書は,アブデュルレシト・イブラヒムという,数奇な運命をたどったあるブハラ人の生涯を描いたものである。中央アジア史を専門とする著者は,30年前にイブラヒムの著書『イスラーム世界』に出会い,以来彼に興味を抱き続けたという。本書は長年にわたる著者の研究の成果を,わかりやすい形で読者に提供している。・・・略・・・本書が扱うイブラヒムの生涯と日本へのまなざしは,イスラーム史を専攻としない読者にとっても興味深いものであろう。特に,第二次世界大戦当時の日本のアジア政策を考えるにあたって,イブアラヒムをめぐる史実は貴重な情報を提供しているといえる。・・・以下略・・・
内容説明
私の名前はイブラヒム。1857年ロシア生まれのトルコ人。太平洋戦争のさなか日本で亡くなるまでの87年の生涯は、この小さな本では語りつくせないが、イスラーム世界の統一を夢見て世界を旅した事と、明治末日本での活躍は十分に語ったつもりだ。暗殺数ヶ月前の伊藤博文さんと語りあった記録も載せている。何故ロシアにイスラーム教徒が多いのか?アジア主義とイスラームの接近は何故か…?現場の歴史家たちが、それぞれの素材をとおして語る、あたらしい世界史。
目次
第1章 自治の夢(ロシアの中のイスラーム;反骨のロシア・ムスリム;ロシア・ムスリムの覚醒)
第2章 韃靼の志士―イスラーム世界と明治日本(明治日本探訪;亜細亜義会)
第3章 戦争と革命(『イスラーム世界』;戦争の中のイブラヒム;ソビエト・ロシア)
第4章 大日本帝国とイスラーム(日本再訪;東京発のムスリム雑誌)
著者等紹介
小松久男[コマツヒサオ]
1951年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。東海大学文学部専任講師・助教授、東京外国語大学外国語学部助教授、東京大学大学院人文社会系研究科助教授を経て、同教授。専門は、中央アジア近現代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆまち