出版社内容情報
『朝日新聞』「ニュースの本棚」2012.8.12より 評者:山室信一
第1次大戦から/帝国の総力戦が与えた衝撃
第2次世界大戦の終結から67年、そして2年後に第1次大戦の開戦百周年を迎えようとしている夏。「未完の戦争」として第2次大戦につながり、ロシア革命を生んだ第1次大戦への関心が国内外で高まっている。総力戦となったがゆえに近代世界のあり方を決定的に変え、「破局の20世紀」の発端となった第1次大戦。果たしてそれは、二つの大戦と冷戦を経た三つの戦後を迎え、しかし今なお「戦時」が絶えない現代世界に生きる私たちにいかなる問いを突きつけているのだろうか。・・・中略・・・
一国史を越えて
さらに、木畑の「帝国の総力戦」という問題提起をうけて、第1次大戦以後のオーストラリアとカナダにおける戦争記憶の再生産が、帝国的統合と国民国家的自立という二つの方向でいかに作用したのか、またそれがどのよう現代の多文化主義につながったのかを動態的にとらえたのが、津田博司『戦争の記憶とイギリス帝国』である。
『図書新聞』2012.10.6より 評者:高田 実
(前略)本書は、カナダとオーストラリア、二つの白人自治植民地の側から「戦争の記憶」に焦点をあてて、「帝国意識」の構築と変容を論じる。本論は三部構成をとる。第一部では、第一次大戦後イギリス本国で制定された休戦記念日がふたつの自治領植民地に普及される中で、戦没者追悼のための「記憶の空間」が作り出されることが語られる。第二部では、これまでの理解と異なり、第二次大戦後の平和主義の進展の中でも、アンザックの伝統や国旗論争を通じて、両国でブリテッシュネスが「拡散」したことが論じられる。第三部は、1960~70年代を対象としつつ、カナダの「大国旗論争」の結末、オーストラリアでヴェトナム戦争期に進行するアンザック・デイの変容を分析する。脱植民地化過程における「新しいナショナリズム」が、「戦争の記憶」を多文化主義の文脈の中に「横領」し、「読み替え」ることで、自己の正当性を主張している様子が明らかにされる。こうして、「帝国の総力戦」としての「戦争の記憶」が、歴史の局面に応じて転形しつつ、国境を越えたアイデンティティづくりに貢献したことが強調される。(中略)三国の文書館を踏査し、みずみずしい感覚で発見した言説を紡ぎながら、著者は独自の図柄のタペストリーを織り上げる。記念日、記念碑、国旗などの記憶のツールがどのように利用され、いかなる歴史の現実が生み出されたのか活写することで、これまで論じられることの少なかったドミニオンを主語としたアイデンティティの構築とその変容が、比較的長期間にわたって検討される。(以下略)
目次
序論 イギリス帝国の紐帯と二つの世界大戦
第1部 大戦間期における戦没者追悼と「記憶の空間」(イギリス本国―休戦記念日の成立;カナダ―「高貴なる死」の記憶;オーストラリア―アンザック神話の形成)
第2部 第二次世界大戦と「ブリティッシュネス」の拡散(イギリス本国―平和主義の進展と新たな大戦;オーストラリア―継続するアンザックの伝統;カナダ―カナダ国旗をめぐる論争とブリティッシュネス)
第3部 脱植民地化と「新しいナショナリズム」(カナダ―脱植民地化のなかの「大国旗論争」;オーストラリア―アンザック・デイの脱植民地化)
結論 帝国の終焉と多文化主義化する戦争の記憶
著者等紹介
津田博司[ツダヒロシ]
1981年神戸生まれ。2003年大阪大学文学部人文学科卒業。2005年大阪大学大学院文学研究科博士前期課程、2010年同博士後期課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(DC1・PD)などを経て、筑波大学人文社会系助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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陽香
ELW
Ohta "Landsman" Tohkan
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