出版社内容情報
『新潟日報』読書欄から (2010.6.6)
経済不安や雇用不安・・・。私たちの社会はどこへ行ってしまうのだろうか・・・。もし未来にそんな不安をおぼえたら,眼を過去へと向けてみよう。(略)結果として,優れた歴史研究は,過去から「今」を鮮明にライトアップすることになるのだ。(略)田畑を村内で細分耕作し,何年か経つとくじ引きをしてそれらを交換し,再び何事もなかったようにその田畑を耕し続ける,などという(割地)慣行は,今の私たちにはなかな理解し難い。(略)人々の生活は厳しく,不安は日常の一部であった。しかし,人々はそこで生き抜くために割地慣行を作りだし,自分たちの技能を磨きながら他所稼ぎに励んだ。彼らも時代の不安にうろたえたかもしれないが,それは記録にあらわれない。記録が示すのは,むしろ軋轢とともに時代を生き抜こうとした当時の人々の前向きな姿だ。(略)本書は,そんな想いを抱かせてくれる好著である。 (評者:長谷部 弘)
『地方史研究』348号(2010年12月)より (評者:阿部綾子氏)
タイトルの示す通り本書は「割地慣行」と「他所稼ぎ」という越後蒲原地域に特徴的な二つの事象を骨子に据え,それぞれの実態を明らかにしている。当該地域の多くの町村史編纂事業に携わってきた筆者の,長年の研究成果が結実した一冊である。・・・略・・・総括すると,割地慣行にしても他所稼ぎにしても,洪水など自然災害に悩まされ続けた蒲原地域の地域的特色が大きく関係しており,田畑からの収益に安定的に頼ることができなかった越後蒲原地域の人々が生み出した「村落共同体の維持」のためのシステムとして提示されており,両者を併せて考えることによって,当該地域の社会背景が深く掘り下げられている。特に読み込みが難しい史料を丹念にひも解き,複雑な割地制度の展開を多角的に明らかにしたことには大きな意義があろう。
『史学雑誌』第119編第11号(2010年11月) 「新刊紹介」より (評者:小酒井大悟氏)
本書は,越後蒲原地域(とくに現在の新潟市西浦区・燕市にあたる地域)を対象に研究を積み重ねてきた著者中村義隆氏が,これまでの成果を集成し,上梓したものである。・・・・略・・・・以上のように,本書は,災害が多発する過酷な環境だった蒲原地域の特徴を踏まえつつ,近世・近代の当地において百姓や村落共同体がどう存立していたのかを,克明に明らかにしている。そこには,村の百姓保護機能や,村における近世・近代移行の様相といった,他の地域の村落史・地域史を考えるうえでも重要な論点への提起が含まれている。越後の近世・近代村落史を研究する者に留まらない多くの人に読まれ,検討されるべき価値のある一書である。
目次
第1部 越後の割地慣行(新潟平野における割地制度の歴史的展開;庄屋の主張する割地慣行の利点;越後蒲原地域における割地慣行の終焉)
第2部 越後蒲原地域と他所稼ぎ(蒲原地域にみる災害下の領主と百姓;近世越後蒲原地方の他所稼ぎ;間瀬大工の業績と会津地方での足跡;大正期西蒲原農漁村の動向―西蒲原郡岩室村を中心として)
著者等紹介
中村義隆[ナカムラヨシタカ]
1932(昭和7)年新潟県佐渡市に生まれる。1955(昭和30)年新潟大学教育学部卒業、その後新潟県内の高等学校及び新潟市郷土資料館、新潟県史編さん室などに勤務。1993(平成5)年新潟県立六日町女子高等学校長定年退職。現在:佐渡市文化財保護審議会委員、東蒲原郡史編さん委員会近世史部会長、新潟郷土史研究会顧問(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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