内容説明
几帳面で整頓好きな普通の男の暮らしに突然入ってきたシルビア、そして小鳥を食べる娘サラ…。父娘2人の生活に戸惑う父親の行動心理を写しだした表題作「口のなかの小鳥たち」など、日常空間に見え隠れする幻想と現実を、硬質で簡素な文体で描く15篇。スペイン語圏における新世代幻想文学の旗手による傑作短篇集。
著者等紹介
シュウェブリン,サマンタ[シュウェブリン,サマンタ] [Schweblin,Samanta]
1978年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。ブエノスアイレス大学で現代芸術論を学びつつ文学活動を開始、これまでに2冊の短篇集を刊行、スペイン語圏における新世代幻想文学の旗手とされる
松本健二[マツモトケンジ]
1968年、大阪生まれ。大阪大学言語文化研究科准教授。二十世紀ラテンアメリカ文学における前衛表象を研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
109
アルゼンチンの作家による小説集。軽妙な文章、でも何かを隠している様な不安が絡みつく読み味。そのアンバランスさがクセになって次へ次へと捲った。物語では日常に奇妙なものが入り込む。学校から飛び出す大量の蝶、テレシータ、穴掘り男、小鳥を口にする娘、人魚男など。シュールでシニカルで、時に残酷、時に滑稽。でもそれは大人や社会からのストレスで乾き切った繊細な心(特に子供の)を暗示しているのでは。ドゥベルが玩具屋に来て「ここにいたほうがいいんです」と繰り返すのを見て、都市が生み出したバートルビーのセリフを思い出した。2023/05/02
ひよこまめ
15
どの話も、読後にじわりと滲む怖さがある。その怖さがどこからくるのか確かめたくて読み返すと、また新たに違う怖さが文章の中から浮かび上がってきてしまう。悪夢をみていて起きた時のような感覚があった。2015/06/27
きゅー
12
幻想短編集、しかもブラック。「サンタがうちで寝ている」では生々しい浮気話が、子供の目を通すことで不思議と良い話になっている(実際にはなっていないけど)のがおかしい。「疫病のごとく」はホラー小説のようにも読め、疫病のごとく何が起ころうとしているのか恐ろしさに充ちている。そして「口のなかの小鳥たち」が良い。グロテスクながら、少女の持つ怪しい魅力に充ちた一篇。現代的でポップな物語のなかに気味の悪さ、邪な雰囲気がうまくミックスされている。物語世界に没頭し、一瞬自分がどこにいるのか見失うような眩きを感じられる一冊。2014/12/05
ROOM 237
9
【安部公房好きは一読の価値あり】アルゼンチン女性作家による幻想モノ15篇。表題作の小鳥を食べる少女を筆頭に、奇妙で不可解な悪夢のような短編集。短いものは3ページほど。言われてみればなるほど、ギャラリーで次々に絵を見ているかのよう。妊娠で胎児がいるはずのお腹を数ヶ月かけて平らに戻そうとする夫婦の話や、穴掘りしていた子供達が居なくなる話など、全体的に少しの悪意と喪失感が漂う。結末は微々たる変化や一言で締めくくられ、読者の読解力が試される一冊。2019/08/27
うえうえ
9
のっけの『イルマン』から読後の余韻が気になる。『穴掘り男』も一読するとモヤっとなり、意味がわかるとホォーとなる。病的で抑圧的な家族関係が多い。短い話なので何度か続けて読むと印象が変わる。文章がシンプルだから読者の想像力にかなり委ねる余地がある。他の人の訳でも読んでみたい。2018/12/12