出版社内容情報
心の中に一頭のラクダが生まれる──社会通念、世俗的で安直な人生行路から、遠く外れて歩む人々。それは、著者が現実と向き合い、不条理だらけの一九七○年代から今日まで、ただひたすら粘り強い作家活動を支えてきたのではなかったろうか。さらにいえば彼女が、韓国現代文学の黄金期を築き上げた代表的な作家の一人に選ばれてきた所以も、そこにあるだろう。
梯子が掛けられた窓
遠いあなた
三角の帆
手話
砂漠の歩き方
彼女の心の中で一頭のラクダが、むっくりと体をもたげて起き上がると叫んだ。
「苦痛よ、さっさとわたしを突き刺すがよい。お前の情け容赦のない刃が、わたしをずたずたに切り裂こうとも、わたしは生き抜くわよ。脚で立つことができなければ胴体ででも、胴体がなければ首だけででも。いまよりも厳しい苦痛の中に立たされようとも、わたしは決して降伏しないわよ。彼がわたしにもたらした苦痛に、わたしはとことん彼を愛することで、報復するつもりよ。わたしはどこへも行かずに、この一つ所で与えられたそれだけでもっても、生きていけることを見せつけてやるつもりよ。そう、彼にばかりかわたしに、こんな運命を背負わせておいて、わたしが耐えきれなくてうめき声を上げたら、慈悲を施そうと待ち受けている、神にもわたしは立派に仕返しをするつもりよ!」
本書「遠いあなた」より
内容説明
心の中に飼う一頭のラクダ。社会通念、世俗的で安直な人生行路から、遠く外れて歩む人々。
著者等紹介
安宇植[アンウショク]
1931年、東京生まれ。桜美林大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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